PRETENDER

5/10
前へ
/10ページ
次へ
   * 「お待たせしました、ウインナー盛り合わせとインカのめざめのガレット、フレッシュモッツァレラとトマトのカプレーゼです」  男三人のテーブルに、料理を運ぶ。  ついでに飲み物の追加を承って、空いたグラスを片付ける……ふりをしながら、ぐずぐずテーブルの近くに居たりして。 「ありがとう、千都ちゃん」 「いいえ。長内さん、お代わりもハーフ&ハーフの生で良いですか?」 「今度は琥珀にしようかな」 「先生は?」 「普通の生」 「……黒ラベルで良いですねっ」  普通って何よ、普通って。  先生はいっつも同じ物しか飲まないんだから。おつまみもあんまり食べないし、体に悪いんじゃないの?って思う。  どうせ言っても聞かないけど。 「立岩さんは?」 「俺は、ジンジャーエールで」 「かしこまりました」  端末に、注文を入力する。  うちのビールは、すぐには出せない。特別な注ぎ方をするので、しばらく時間が必要なのだ。入力した注文が注がれた頃を見計らって、テーブルに届ける。 「んー……それにしても、今回も良い仕事っぷり!惚れ惚れするね♪」  骨董品やアンティークショップのオーナーさんの長内さんが、お皿を眺めてにっこり笑った。いつもと同じく、着物に羽織。ご注文頂いて先生が仕上げた金で継がれた備前焼の大皿に、キスでもしそうな勢いだ。 「お前らがあんまり働き過ぎると、正直俺達は迷惑なんだよ」  一年中黒いTシャツにジーンズという陶芸家の立岩さんが、ビールを口に運びながら言う。  美術雑誌の特集とか表紙に載るような、新進気鋭の陶芸家さんだ。時々デパートの特選品コーナーで展示もしていて、先生のとこにハガキが来る。 「割れたら直して使うのは美徳かもしれんが、新作を買って貰わないと陶芸家は食えないんだよ。文化を守るには作り手の努力だけでは足りない。使う側の美意識が必要なんだ。……あ!」  力説した立岩さんは、ほとんど残っていなかったビールのグラスを、派手に倒した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加