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「お待たせしました、ウインナー盛り合わせとインカのめざめのガレット、フレッシュモッツァレラとトマトのカプレーゼです」
男三人のテーブルに、料理を運ぶ。
ついでに飲み物の追加を承って、空いたグラスを片付ける……ふりをしながら、ぐずぐずテーブルの近くに居たりして。
「ありがとう、千都ちゃん」
「いいえ。長内さん、お代わりもハーフ&ハーフの生で良いですか?」
「今度は琥珀にしようかな」
「先生は?」
「普通の生」
「……黒ラベルで良いですねっ」
普通って何よ、普通って。
先生はいっつも同じ物しか飲まないんだから。おつまみもあんまり食べないし、体に悪いんじゃないの?って思う。
どうせ言っても聞かないけど。
「立岩さんは?」
「俺は、ジンジャーエールで」
「かしこまりました」
端末に、注文を入力する。
うちのビールは、すぐには出せない。特別な注ぎ方をするので、しばらく時間が必要なのだ。入力した注文が注がれた頃を見計らって、テーブルに届ける。
「んー……それにしても、今回も良い仕事っぷり!惚れ惚れするね♪」
骨董品やアンティークショップのオーナーさんの長内さんが、お皿を眺めてにっこり笑った。いつもと同じく、着物に羽織。ご注文頂いて先生が仕上げた金で継がれた備前焼の大皿に、キスでもしそうな勢いだ。
「お前らがあんまり働き過ぎると、正直俺達は迷惑なんだよ」
一年中黒いTシャツにジーンズという陶芸家の立岩さんが、ビールを口に運びながら言う。
美術雑誌の特集とか表紙に載るような、新進気鋭の陶芸家さんだ。時々デパートの特選品コーナーで展示もしていて、先生のとこにハガキが来る。
「割れたら直して使うのは美徳かもしれんが、新作を買って貰わないと陶芸家は食えないんだよ。文化を守るには作り手の努力だけでは足りない。使う側の美意識が必要なんだ。……あ!」
力説した立岩さんは、ほとんど残っていなかったビールのグラスを、派手に倒した。
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