3/3
前へ
/6ページ
次へ
考えていた事を全て見透かされ、何も言えず口をパクパクする事しか出来なかった。 顔が火照っているのが分かる。熱い。絶対顔が赤い。 だから人と関わるのは苦手なんだ。何を話せばいいか分からないし、話したところで得もない。 その上、余計な恥までさらしてしまうんだから、むしろ損しか生まれない。 傘を押し付けて走って帰ろうかと考えた矢先、女性が先に口を開いた。 「では、もしよろしければ、近くのコンビニまでご一緒させてもらえませんか?」 突然の事に頭がついていかず、口を開けたまま、女性が言った事を理解するため少ない脳みそを回転させる事に全てを注いだ。 つまり?コンビニに行って傘を買ってくるから、一旦傘を貸してくれって事か? いや、それだと「ご一緒」じゃないよな。「ご一緒」って事は、俺とこの女性が一緒にコンビニに行く事だけど、傘は一本しかないし、って事はつまり? 俺がフリーズしていると、大きなため息をついた女性が俺に手渡した傘を俺の手から奪い取る。 しびれを切らしてしまったようだ。仕方ない。俺と話をする人は、俺のテンポの悪さにイライラしていた事を思い出す。 相手が嫌な気持ちにならないように、とか、変な勘違いしないように、とか考えているとどうしてもワンテンポ遅れてしまう。 嫌な事を思い出してしまった。仕方ない。これが俺なんだ。この女性が傘を買って戻ってくるまで、適当に携帯をいじりながら時間を潰… 「ほら、行きますよ」 彼女はまっすぐ俺のほうに右手を伸ばすと、先程まで傘を持っていた俺の左手を掴んだ。 状況が飲み込めていない俺を尻目に、俺の左手をつかんだまま、女性は会社の玄関方面へ歩いて行く。 玄関を出て、屋根部分で眼前に広がる降雨風景を眺めていると、俺の傘を開いた女性は、俺が傘の右側に入るように隣に立ち、俺の目を見ながら「さ、行きましょうか」と言って微笑んだ。 名前も知らない彼女。コンビニまでは10分もあれば着く距離だったが、俺のせいか彼女のせいか、その日は20分くらいかかったような気がした。 農家の皆様。安心してください。 雨が好きになれそうです。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加