【第1話:はじまりの朝】

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【第1話:はじまりの朝】

 その日は、どこまでも続くような青空が広がる気持ちの良い朝から始まった。 「今日も良い天気だな~」  雲一つない空を見上げて呟くと、僕は大きく伸びをした。  僕の名はダイン。  今日でこの孤児院に来てちょうど1年がたつ。 「おはよう! ダイン! 今日から養成学校だね!」  眩しい日差しを受けて輝く長い黒髪を、少し鬱陶しそうにかきあげた少女は、駆け寄ってくると僕の手をとって笑みを浮かべる。  その屈託のない笑顔はとても魅力的で、思わずドキリとしてしまうほど愛らしく、そして……綺麗だ。  まぁ調子に乗るので、本人には絶対に言わないけどね。  この子の名はセリア。  今僕が暮らしている孤児院の女の子だ。  一応、12歳という事になっているが、幼いころに魔物に襲われて両親をなくしており、正確な歳はわからない。  ただ、この孤児院では生まれた日がわからない場合は、ここに来た日をあらたな始まりの日として誕生日とするのが慣例なので、セリアは今日が僕と同じ12歳の誕生日という事になる。  そう。僕も生まれた日がわからないから、今日が12歳の誕生日なんだ。 「ねぇねぇ! 早く行こうよ! 今日から待ちに待った養成学校なんだよ!」  待ちに待っていたのはセリアだけだと思うよという言葉を飲み込んで、 「セリア……まだ養成学校に向かうには早いよ? それに僕たち、まだ朝ご飯も食べてないんだけど……」  とりあえず時間が早すぎると言ってみる。 「朝ごはんなんて別にいいじゃない! いよいよ()()()になる為の訓練が始まるんだよ! 私もう待ちきれないよ~♪」  僕にとっては朝ごはんは凄く大切なんだけど……。  この世界『メリアード』では、定期的に街に魔物が押し寄せてくる『モンスターウェーブ』と呼ばれる現象が起こる。  その脅威に対抗するために結成されたのが守護者ギルドだ。  その守護者ギルドに所属するためには、守護者養成学校を卒業する必要があるのだけど、その学校に通えるようになるのが12歳からなんだ。  つまり、僕とセリアは今日から通う事が出来るんだ。  その守護者養成学校に通えるようになるのは嫌じゃないんだけど……。 「さよなら……僕の朝ごはん……」  抗議の甲斐もなく、僕はセリアにぐいぐいと手をひかれていく。  そのまま孤児院の外に連れていかれそうになったのだが、そこに現れた人物のお陰で、何とか朝ごはん抜きの刑は免れそうだ。 「こ~らっ。セリア、こんな時間に向かっても門すら開いてませんよ? 朝ごはんが出来ているから早く食堂に向かいなさい」  この孤児院の院長であり、僕たちの義母(かあさん)でもあるマリアンナさんだ。 「ほらね? セリア。僕もお腹空いたし、早く食堂いこうよ」 「むむむ。仕方ないなぁ。少しでも早く訓練学校行きたかったのに……じゃぁお義母さん。また後でね!」  セリアは大きく手を振ると、今度は僕の手をひいて食堂に向かって歩き出したのだった。  ~ 「まだ誰も来てないみたいだね」  この孤児院には僕たちをいれて5人の孤児がいるのだが、いつもより時間が早いせいか、食堂にその姿を見つける事は出来なかった。  キッチン横の壁に掛けられた時計に目をやると、まだ7時にもなっていないようだ。  みんないつも7時になってから食堂に集まりだすので、まだ暫く待つことになりそうだと考えていると、 「ダインお兄ちゃん!」  一人の小さな女の子が、後ろから僕の腰にギュッと抱きついてきた。 「ソニア!? ズルい……じゃなくて、いつまでもそんな事してちゃダメでしょ!」  セリアの唯一の血のつながった家族。  三つ下の妹のソニアは、僕を見つけるといつも腰に抱きついてくる。  別に僕は気にしていないのだけれど、その度にセリアと小競り合いがはじまるんだ。 「い~~だ! お姉ちゃんだっていつもダインお兄ちゃんの手を握ってズルいもん!」  今日もこのまま小さな喧嘩が始まるのかと思っていると、後ろからマリアンナさんが付いて来ていたようで、揃って頭にげんこつを喰らって小さな争いは終わりを告げたようだ。 「さぁ席について! もうみんな来るから大人しく座って待っていなさい」 「「は~い……」」  少し肩を落として席に着く二人に続いて、僕もその向かいのいつもの席に着くと、 「ダイン? なにクスクス笑ってるのよ?」  いつの間にか僕は笑っていたらしい。 「そう言えば、一年前のあの日もこんな感じだったなぁって思って」 「そ、そうだったかしら?」  一年前、僕は何かの爆発事故に巻き込まれたらしく、気付けば城壁の側で全身血まみれで倒れていた……らしい。  なぜ「らしい」と曖昧な事を言うのかというと、僕には倒れていた時の……いや、それ以前の記憶がほとんどないんだ。  覚えているのは何かの大きな爆発に巻き込まれた瞬間の記憶と、ダインと言う僕の名前。  そして……こことは違う世界にいたという事だけだった。
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