【短編】水鏡の夜

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おいで。 おいで。 貴女を頂戴(ちょうだい)。 森の闇には、 貴女が似合いよ。 木々がさざめいて、 嬉しそうに貴女を呼ぶの。 待ち切れないらしいから、 貴女を連れて行きましょう──── ### 豊かな農村の隣にある 枯れ荒れ果てたその森は 夏の今 一葉の影も見当たらず ある夜彼らは反乱を起こした 黒髪の豊かな女を頭に 森の民は水という水を奪い 干からびた村に背を向けて 自らの森を潤した 何年 何十年 何百年ぶりだろう 生気を取り戻したその森は 一晩のうちに葉をつけた 水が彼らを潤した 何年もかけて村人は 森との共存を妥協する 水面にできた鏡のように その森はいつでも人間を映していた c44bbd90-80be-4442-9d72-9d7c2581a3d5
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