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【序章】ココから↓
太初の巨木が乱立する原生林。
夜闇に包まれた深い森の中に、不気味な角笛の音が響き渡る。
一定の間隔をおいて、静けさを揺さぶる角笛の唸り。
そしてその合間に聞こえるのは、下草を踏み分けて駆け抜ける幾つもの足音と、男たちの声。
「……奴を逃がすな。必ず、無に返すのだ。それが我等が神と、陛下の御慈悲……!」
月のない夜に溶け込む漆黒の肌、闇に淡く浮び上がる黄色の髪と瞳の男たち。
堅く弦の張られた弓を片手に、彼らは獲物を追って森の中をひた走る。
やがて、狩人達の先頭に立った男の切れ長の目が、暗い森の中に何かを捉らえた。
「見つけたぞ」
揃いの短いマントをはためかせ、固く弓を握り締めた男たちの視線は、一点に集中した。
そこには、森の外れに向かって必死に駆ける少年の後ろ姿がある。
恐らく十六、七であろう。
蒼白い肌と風になびく銀色の髪、整った貌に煌めく虹色の瞳。
どことなく儚げで、それでいて不思議な強さを漂わせた少年。
しかしその姿は、夜に紛れるには余りに目立ち過ぎる。
少年は軽い胸当てに、抜き身のレイピアを手にしている。
闘う戦士の見なりを見せてはいるが、彼は後ろを振り向く事なく、ひたすら逃げてゆく。
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