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「うーん……あっ! この辺のが、良さそうかもー」
やっぱり、ここに来て良かった。
誰の足跡もついてない、真っ白な雪に覆われた城址公園の遊歩道。
その脇にあるベンチまで、サクサクと音を立てて進む。
ベンチの上に積もった雪を少しはらって荷物を置き、その横にしゃがんだ。
「綺麗……」
鮮やかに咲き乱れてる深紅の椿に、目を奪われる。
その花びらの紅の濃さを際立たせるかのように、ふわりと乗った雪の白。
「雪夜と、見たかったな」
色合いの対比に、数秒、見惚れてから、おもむろに作業を開始した。
「うぅっ、冷たい」
防水加工してない手袋は、じわじわと雪の水分を吸い込んで。手のひらから指先まで、徐々にかじかんでいく。
気休めだけど、はぁっと息を吹きかけてみた。
「もう少しだから、頑張って。ねっ?」
自分の手に向かって励ます。なーんて、他人が見たら引かれてしまうだろうことを真剣にやって、仕上げに精を出すことにした。
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