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冗談じゃない。濡れてたまるか。
命より大切な『商売道具』を抱えて、僕は、とある造り酒屋の軒下へ走った。
こんな事もあろうかと、バッグに忍ばせた折り畳みの傘──だが。出番など、最初から、ある筈も無かった。
見てくれ、僕のこの姿を!!
右手は、 命より大切な『商売道具』で──左手は、大きな黒のトートバッグで塞がれている。
傘を持つには、あと一本の手が必要だ。
使いたくても使えないそれは、最早ただの荷物でしかない。
荷物──
ふと脳裏を過ぎったその単語は、まるで、僕自身を指している様に思えた。
言い得て妙で、泣けてくる。
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