【起】cloudburst

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ザーザーと、音を立てて降り(しき)る雨。軒先に落ちるそれは、まるで滝の様だ。時折閃く雷光が、ストロボの様に街を照らす。 …困ったな。 いつになったら止むのだろう? 雨宿りも結構だが、このまま立ち往生していては、『リハーサル』に遅れてしまう。 僕は、トートバッグを足元に置いて、モバイルフォンを取り出した。メールアプリを立ち上げ、『仕事仲間』にトークを送信する。 『この雨で、少し遅れそうだ。コンマスに、そう伝えてくれ』 ──すると、直後にピロンと通知音が鳴った。 『了解、伝えとく。でも、雨は遅刻の理由にならないんじゃないかな?? 多分、コンマスには通用しない。怒られる覚悟は、しとけよ。』 揶揄する様なスタンプと共に、そんなメッセージが返って来たので、僕は益々憂鬱になった。 叱られると解ってはいても、今はこの場を動く訳にはいかない。叩き付ける様な雨の中、強行突破を試みる程の無謀な勇気など、僕は、持ち合わせてはいない。 遅刻を恐れて、命より大切な《商売道具》を濡らしてしまっては、それこそ本末転倒だ。これが無ければ、僕は存在しないも同然なのだから。 …そもそも。急な天候不良が、遅刻の原因だと云うのに、何故叱られなければならないのだろう?不可抗力ではないか!? オーケストラのお荷物でしかない僕など、居ない方が良いだろうに。 そこまで考えて──僕は、大きな大きな溜息を()く。 また、負の感情に取り憑かれてしまった…。雨に降られた所為(せい)で、いつも以上に気が滅入る。 柔くて脆いメンタルに、また小さな傷が増えた。
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