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僕が所属する小さなオーケストラは、主に地元を中心にコンサート活動を続けている。大きなイベントや、地域の祭りの賑やかしとして出演する事も多い。
そんな時のオーディエンスは、殆どが、お年寄りや小さな子供達だ。
何度か、民放テレビ局の番組に出演した事もあるが…活動の殆どが、慈善事業絡みである。
望んだ筈の未来とは、少しだけ違う現実。
それでも、僕は幸せだった。
音楽の女神が、気まぐれに味方してくれたお陰で、まだこの世界に留まる事が出来ている。
…なのに。
このところ、どうも上手くいかない日が続いている。所謂る、スランプというやつだ。
練習を怠っている訳では無いのに、コンサートマスターには、音が違う、テンポが遅いと怒鳴られてばかりだ。
才能が無い事ぐらい、随分前から自覚している。だが、努力しても実らない現実があるなんて…僕は、まだ認めたくない。
足掻くだけ足掻いて、心がボロボロになるまでは、まだこの場所にしがみついていたかった。
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