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【結】Happyend
程なく、空は明るくなった。
雨は徐々に勢いを無くし…やがて完全に晴れ上がる。
雲間から優しい陽光が挿し込めば、僕らの緊張も緩んでいった。
雨宿りの隣人に、僕はふと話し掛ける。
「雨、やみましたね。」
「はい。凄かったですね。」
あまりにも自然に交わされた言葉。
僕らは束の間、微笑を分け合う。
「傘…持っていらしたのに。もしかして、私が断ったから??」
──僕の顔色を伺う様に訊ねる彼女。
不意打ちの上目遣いが、可愛いらしい。
僕より、少し年下だろうか?
じっと仰視されて…胸がドキンと跳ね上がる。
答えの代わりに、僕は曖昧な笑みを浮べて見せた。そうして、ふと自分の過ちに気付く。
傘を持っている癖に、それを使わず、隣で雨宿りする男がいたら──女性なら、警戒して当たり前だ。
そうか、成程…
唐突に話し掛けて来た僕を、彼女は不審に思っていたのだ。
真実が解った途端、僕は猛烈に恥ずかしくなった。
勿論、疚しい気持ちなど無い。
僕はただ…豪雨の中、ひとり雨宿りする女性を、何となく放って置けなかったのだ。
「…ごめんなさい、逆に気を使わせちゃったみたいで。」
彼女の唇から、謝罪の言葉が零れた。
親切で差し出した傘を断った事に、罪悪感を抱いたのだろう。
だが、謝るのはこちらの方だ。見知らぬ男に話し掛けられて、怖い思いをさせてしまった。
微妙に擦れ違う気持ちがもどかしくて…僕は、言葉を捻り出す。
「良いんです。あの雨じゃ、傘があってもきっと濡れていた。」
微笑んでみたが、上手くいかない。どうしてこうも不器用なのか…僕は、少しの自虐に陥る。
すると…
彼女が、突然話題を切り換えて来た。
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