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【転】Encounter
──今日は、僕らのオーケストラの定期演奏会が行われる大事な日。なのに、この突然の豪雨で、僕は足止めを食わされている。
命より大切な『商売道具』であるオーボエは、湿気に弱い楽器だ。ケースに容れてあったとしても、極力、雨に濡らしたくない。
リハーサルの集合時間は、とうに過ぎていた。今頃は、コンサートマスターを中心に、ゲネラルプローべを初めている頃だろう。
バケツをひっくり返した様な、雨。
ビルの窓に映る稲妻。
庇の下に匿われながら…僕は何度目かの溜息を吐く。
──と、そこへ。
ふわふわのミニドレスに身を包んだ、小柄な女性が駆け込んで来た。そうして、僕から少し離れた場所に立ち、同じ様に雨宿りする。
不安げに、雨空を見上げる小さな横顔。濡れた髪から滴る雫が、何とも言えず美しくて…僕は思わず目を奪われた。
まるで、教会から逃げ出して来た花嫁の様だった。白い額に張り付いた前髪が、妙に艶かしい。
思わず見蕩れていると、彼女は、ふと思い立った様に、バッグの中を探り始めた。
暫くの間、そうして何やら格闘していたが…
目的の物が見付からなかったのか、がくりと肩を落として溜息を吐く。それを見た僕は、彼女が置かれた状況を察した。
(傘…持っていないのか。)
そう確信した途端、いてもたってもいられなくなる。楽譜の入ったトートバッグから、折り畳み傘を取り出すと、僕は静かに彼女に近付いた。
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