天野さんは傘が好きすぎる。

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「えっと、天野さんは、なんで、僕なんかのことを……?」  一個『答え』をすっ飛ばしてしまった僕は、照れ隠しも含めて、そんなことを天野さんに問うていた。 「雨で帰れなかった私に、そっと、雨傘を差し出してくれたのがきっかけです」 「……それだけ?」  確かに、覚えている。  6月のことだ。  梅雨にも関わらず天野さんが傘を忘れてきていたので、僕の傘を天野さんに貸したことがある。相合傘は恥ずかしいので、僕は走って帰ったが。 「佐野くんが、差し出しながら言ったのですよ。『天野さんさえ、嫌じゃなければ』って」 「それが……?」 「普通の方なら普通なのですが、私はミス研の部長なのです! あんな何かの伏線みたいな言われ方をしたら、その真意を考えてしまいます!」 「伏線みたいかなあ……」  いや、どう考えても、考えすぎだ。 「それで、帰って考えたのです。佐野くんから与えられた謎について……。そして私は、はたと気づいたのです。『雨傘(あまがさ)』『天野さんさえ、嫌じゃなければ』……つなげたら、あれ、佐野くんって私と結婚したいのかな? って!」 「いや、それは飛躍しすぎだよ」  せっかくの良いムードに申し訳ないが、突飛な天野さんの発言に僕が冷静にツッコミを入れると、 「はい、一晩で我に帰りました」  と、照れ臭そうに笑う。 「でも、佐野くんもミス研部員ですので、万が一ということも考えて、意味ありげに雨傘を佐野くんに見せつけてみたのです。佐野くんがそういう意味で私に傘を差し出したのであれば反応するかな、と思って。あ、もちろん、佐野くんに返した傘と別のやつですよ!」 「それで、僕が全然反応しなかった、と……」 「はい、もう、それは本当に全然反応しなかったですね……。どんな反応するかなって佐野くんのことをずーっと見ていたら、傘が関係ない時も私、佐野くんのこと目で追ってることに気づいて、それで、あー私、佐野くんのこと、好きなんだって……」  顔をまた赤くして、天野さんが髪を指でくしくしと()かす。 「……間違ってないよ」 「……へ?」 「僕が、天野さんに傘を貸した理由」 「……!! やっぱり、『雨傘』に暗号を!?」 「い、いや、それはない!」  僕が慌てて否定すると、天野さんは唇を尖らせる。 「じゃあ何が……?」 「……天野さんのこと、好きだったから、貸したんだ」  天野さんの瞳が見開かれる。 「え……?」 「傘を貸した時には好きだった。……それは、間違ってないから」  ああ、心臓がうるさい。 「ちょっと、佐野くん、いきなり、素直にならないでください……」  恥ずかしそうに、だけど、嬉しそうに、天野さんは目をそらす。 「ねえ、天野さん」  僕は、大切なことをあらためて、訊く。 「……それで、『答え』は?」 「『答え』ですか?」 「結婚を前提に付き合ってくださいって、言った答えを聞いてない」  僕はやっとの思いでそういうと、天野さんは満面の笑みで傘を開いてこちらに向ける。 「正解だったらこれをやろうと思ってこの柄の傘を買っていたのです!」  その傘には、大きな丸印(まるじるし)。 『あと、解読していただいた時に開きたいと言うのもあります』  そういえば、そんなこと言ってたな。 「正解というか、OKです、という意味になっちゃいましたけど」  傘の脇からひょこっと顔を出して、天野さんは照れ臭そうにはにかんだ。
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