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託された黄色の傘
あの日は急に雨が降ってきた。退屈なパーティを抜け出すことしか考えていなかった私は、当然傘なんて持っていなかった。帰ることもできず、鳥籠のように細く縦長な屋根に囲まれたテラス席で、ただぼうっと頭上に広がる灰色に淀んだ雲と、地面に打ち付ける雨を眺めていた。幼かった私は、初めて着た淡いピンク色のドレスを濡らしたら怒られてしまう、なんて暢気な事を考えていたはずだ。
転機が訪れたのは、傘を差した少年の姿を見てからだ。シンプルで何の飾りもないただの黄色い傘が、手入れされたどの花よりも大きく目立っていた。目が合った時、私が声を掛ける間もなく少年は走ってきた。
テラスに到着した彼は手を膝に置き、息を切らしながら私に向かい気遣いの言葉をかけた。その姿が私にとって不思議で仕方が無かった。
なぜ見ず知らずの自分に向かい、優しく接するのか。
尋ねたら、キョトンとした顔で平然と言い放った。
「だって寂しそうだったんだもん」
そんなことない、と即答出来なかった。
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