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一緒に戻ろうと誘う少年の申し出を拒否することなく、私は少年の傘に入った。ドレスが汚れないようにゆっくり歩く私の歩幅に合わせてくれた少年の配慮が嬉しくて、このまま二人だけでいられたら良いのに、なんて思っていた直後だった。
突如、アラーム音が少年のポケットから鳴り響いた。
電話に対応する彼の言葉を聞く限り、今どこにいると聞かれているようだ。焦った様子ですぐ戻るから、と乱暴に言い放ち、私に向かう。少しだけ悲しい顔をした少年は小さく笑った。
「ごめんね。呼ばれたからもう行かなくちゃ。傘は君が預かっていて。いつか貰いに行くから」
傘の柄を私に預け、膝を曲げて傘から出ようとする少年に慌てて手を伸ばす。ぎりぎり届いた服の裾を引っ張りながら、どうやってあなたを見つければいいと問うた。すると、彼は再び慈愛に満ちた笑顔で言う。
「じゃあ晴れの日も、傘を差しちゃえば?」
いつも傘を持っていれば、会えた時に絶対気が付くよ。そう彼は言い残し、雨の中を去って行った。
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