託された黄色の傘

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 あの日のパーティの参加者を当時の世話係にすぐ調べさせたが、私の言う彼の特徴に当てはまる者はいなかった。しかし、当時の私も悪かったのだ。あの場にいたのは、大富豪の家族だけではない。いつか将来、主従関係となる予定の令嬢と会わせておこうとメイド長が目論み、招待状を持たぬ客人がこっそりパーティに参加していたのだ。  名前を聞かなかった私にも非はあるだろうが……それにしても自分の持ち物に名前を書かない方にも責任はあるのではないだろうか。名前さえ書いてあれば、言い逃れのできない確実な証拠となったのに。  あと、もう一つ。私の至らなかった点があった。それは、男の子を探してほしい理由として、私が堂々と「傘をくれた男の子を好きになったから」と断言してしまった点だ。  パーティの参加者であれば喜んで申し出てくれたであろう。しかし、立場上、自分だと名乗り出ることの出来ない人間がいることを、当時の私は理解してしなかったのだ。  今の私なら理解できる。  傘を貸した男の子が見つからないのではない。  自分だと名乗り出ることが出来ないのだと。
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