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「桜子ー!」
主人を呼ぶ声と同時に,タッタッタと石畳を蹴る音が聞こえる。鈴のように凛と,しかし透き通るようなのびのびとした声は振り返らずとも,どなたの声か判別可能だ。しかし,もちろんお嬢様のご友人に挨拶をしないなんて愚考は端から無い。振り返り,左手だけで荷物を持ち直す。右手は完全に空いた状態だ。
次の瞬間,石畳の突起部分に躓いたご友人が短い悲鳴をあげた。
スタートダッシュの合図だ。
硬直した身体がそのまま斜めに傾く。倒れこむ前にご友人の元へ追いつき,空いた右腕でしっかりと包み込んだ。一瞬,負荷がかかったが,あまり力まずとも耐えられた。
自分の力で体制を立て直したご友人から一度離れ,右手を胸の当て頭を下げる。
「失礼いたしました。永遠様,お怪我はございませんでしょうか」
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