困りものの執事

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困りものの執事

 この晴天の中、直射日光を吸収せんと言わんばかりの真っ黒なスーツを着込む執事の横顔から、汗を掻いていることがうかがえた。通気性の良い白シャツを着ているくせに、さらに黒のベストを重ね着しているため、見ているだけで非常に暑苦しい。  じわり、と雫のように汗が滴り落ちる感覚が頬を伝う。日傘特有の、紫外線遮断機能を搭載していないこの古い傘では、せいぜい若干の日陰を作ることしかできない。片手で制服のポケットからハンカチを取り出し、顔に押さえつけた。  ついでに、執事の顔にも押さえつけてやろうかしら。  そんな意地の悪い思考が脳裏に浮かぶ。だが、どうせ止められるのだろう。そして、私の手に持つ傘を見て「日傘をお使い下さいと何度申し上げれば良いでしょうか」と小言を垂れるのだ。  その程度の思考回路を読むのはたやすい。だって、私は彼を5年間従えているのだから。  もちろん私は、執事がかつての傘の持ち主を一切、探す気が無いことだって知っている。  臆病者め。  そんなに私の初恋相手を認めたくないのか。  溜息は初夏の空気に溶けた。  見せしめのように、傘についての約束をいつもの如く友人に語るのだった。
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