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「先生、色のイメージは?」
「少しくすんだ赤、鮮血じゃなくてちょっと固まり始めた血の色かなあ」
「う~ん、コレは僕のポリシーからは外れますが、先生の気持ちを文字にのせるということで、イメージしやすい血色にルビをあかとふりましょう。渦巻く血色……が、やっぱりいいです」
「じゃあ、山形くんに任せる」
「あと、先生。以外の字、間違ってますよ。ほかに、戦わざるおえない、になってます。下の〈を〉に変えてください。打ち間違ってますから」
「今、言うか。こそっと校正しといてくれればいいじゃないか」
作家が魂を込めて作り出した小説の一語一文字にも深いこだわりがある場合があることをこの仕事をして知った。知っても斜め読みを常としてきた僕はついついあらすじを追ってしまう。申し訳ない気がして、時間があるときにもう一度ゆっくりと作家たちの選んだ言葉をかみしめようといつも思う。
「直せました? そうそう、先生たちよりも僕たち編集よりも何度も一作品を読み返している人たちがいることを最近知ったんです」
僕の話を聞いていない。集中している。こうなれば目処が立ったと言える。僕は緑川先生宅をあとにして、より癖の強い赤江先生のところへ向かうことにした。
「帰っちゃうの? 山形くん」
「今日は時間がないので。緑川先生、忘れずに編集部に原稿送っといてください。話の続きはまた今度……」
〈了〉
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