夏の始まり

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ベッドの中での先生は、先生じゃなくて、 1人の男の人なんだなと改めて感じた。 それでも、私にはとても優しくて、 私を、沢山気遣ってくれる先生。 初めての体験をする私をとても優しく、大切に扱ってくれたんだ。 愛されてる証拠。 愛している証拠。 何度も確かめ合う私たち。 あぁ、こういうことなんだって、 すごくはっきりと、わかった気がした。 「好きだよ」と何度も言う先生。 私は愛されていると思った。 このまま時が止まってしまえばいい。 そう思った。 一線を超えた2人。 壁を越える事ができた事がとても嬉しく、幸せに感じる。 先生の腕枕でそのまま眠りについた。 髪の毛をそっと撫でてくれる大きな手。 この手は私だけのもの。 独占欲なんて、先生だけじゃない。 私の中にもあるんだ。 ドキドキと不安が、いつのまにか安心感に変わっていた。 朝の光で目が覚めて、上半身を起こす。 裸でいる自分に気がつくと、恥ずかしくなり、慌ててタオルケットで体を隠した。 あぁ、そうか。 私、ついに、、、。 隣には深い眠りについている先生の寝顔がある。 先生の寝顔を見るのは2回目だ。 こうやってこれから先も何度も見ることができるのかな。 そうだといいな。 本当に幸せだ。 先生から愛情を沢山もらった私。 私もそれ以上の愛情をこれからもっと返していきたい。 寝ている寝顔をじっと見てしまう。 自然に笑みがこぼれる。 なんだか恥ずかしいような、くすぐったいような。 じっと先生の寝顔を見入っていると、 先生の瞼がゆっくり開く。 「ん?あぁ。朝か。」 状況をすぐには飲み込めなかったようで、少し寝ぼけている先生。 「腕痛くない??」 ずっと腕枕をしていてくれたみたいで。 「あぁ、腕?なんともないな。」 先生は私の頭元に伸びた腕を曲げながらそう言った。 「よかった。」 腕枕なんてされた事がないから、つい気にしてしまったんだ。 何ともなくてよかった。 先生も上半身を気だるそうに起こして、隣で少しぼーっとしている。 なんかその姿が愛らしく思えて、頬にキスをする。 「おはよう」 少し照れるけれど、こうやって迎える朝は幸せで。 先生はふっと笑って、私の唇に軽いキスをする。 「おはよう」 こんな日が来るとは夢にも思ってなかった。 幸せすぎて、涙がでそうだ。 「天気良さそうだな」 先生が呟く。 カーテンの隙間から入ってくる日差しは眩しい。 「休みだし、どっか出かけるか。」 「うん!」 「その前に、お前、一回家帰った方がいいな。親に顔見せてこい。」 あ、、、忘れてた。 ちいちゃんうまく言ってくれたのかなぁ? 後で電話しなきゃ。 でも、それよりも、まず先に、この裸の状態でいる事が恥ずかしい。 着替えたいけど、、、。 どうしよう。 考えている間に先生は、さっとスエットに着替えて、「ほら、とりあえずこれ着て、シャワー浴びてこい」と、シャツを渡してくれた。 先生は、ベッドから立ち上がり、Tシャツを着て、居間へ行く。 私に背を向けてタバコに火をつける。 なんか、、慣れてるなぁ、、、。 大人だもんなぁ。 先生から受け取ったシャツを着て、ボタンを留めて、ベッドからゆっくり降りた。 先生のシャツはとてもブカブカで、すっぽり私を隠す。 「じゃあ、シャワー借りるね」 「ああ。」 タバコを吸いながら、テレビをつけて、チャンネルを変えている先生。 いつもの、先生に戻っている。 いつもの私たちに戻れたんだ。 よかった。 本当に良かった。 先生との間に、もう壁は無い。 高くてなかなか超えられなかった壁。 壁の向こうには何があるのかなと思っていたけれど、その先には当たり前の幸せがあった。 何かが変わったようで、変わらない2人がいる。 シャワーを浴びて、居間へと戻る。 「俺も風呂入るわ。」 そう言って先生も、お風呂場へ行った。 濡れた髪をタオルで拭きながら、何気なくカバンから携帯を取り出し、画面を観ると、不在着信の数のの多さにびっくりする。 ちいちゃんから10件もの着信があったからだ。 !!! すぐさま、ちいちゃんに掛け直す。 「響!?!?やっとつながった!!! ちょっと!昨日の、どーゆー事!?!?」 ちいちゃんは、私と先生の事を心配して、、、 というより、気になって気になって仕方なかった様子で。 眠れなかったんだからぁ!!としきりに私と先生の事を追求してくる。 「おばさんには、うまく言っといたよ! バイト帰りに駅で会って、そのまま泊まることになったって言ったら、すんなり、よろしくねってー言ってたよ。 そこは全然大丈夫だと思うけど! っていうか、どーゆー事!?!? いきなり伊藤の家に泊まるって!! 伊藤とそーゆー事!?!?」 ちいちゃんがまくし立てる。 お母さんにはうまく言ってくれたようで、ありがたい。 そして、迷惑をかけてしまったことに申し訳ない気持ちだ。 「ちいちゃん、ごめんね!昨日はありがとう」 「そんなのはいーんだって!!でも、響にもしものことがあったらどうしようと思ってぇ!。泊まるって、そーゆー事!?!?。そうならいーんだけど、もし、喧嘩が長引いて、響が辛い思いしてたらと思ったら、いてもたってもいられなくてさぁ!」 ちいちゃんにはちゃんと報告する責任がある。 沢山心配をかけたんだ。 「ごめん。ちゃんと仲直りしたよ。」 私がそう言うと、ちいちゃんには全てが伝わったようで、 「そーゆー事ね!よかったね!響!!。本当によかったぁ!!!」 と、自分の事のように喜んでくれる。 恥ずかしいけれど、、、。 「、、、うん。ありがとう。」 「そっかー。伊藤もやっと響の大切さに気づいたんだね!なんであの時拒否ったのか超不思議ー。まぁ、いいかー。響が今幸せなら!」 ちいちゃんは、また今度ゆっくり話を聞かせてねーと言っている。 今度話をするよと言って電話を切った。 ちぃちゃんの存在が本当にありがたく感じる。 ちぃちゃんとの電話を切ったところで先生がお風呂から上がってきた。 「なんだ、まだ髪乾かしてないのか。」 濡れたままの髪の毛を見て言う。 「今ちいちゃんと電話してたんだ。昨日の事お礼言ったよ。」 「あぁ、そうか。そうだな。親にうまく言っといてくれたって?」 「うん。」 「そりゃよかった。今度千草にお礼しなきゃなな。」 先生はそう言って、ドライヤーを持ってきた。 私の後ろに座って、何も言わず私の髪の毛を乾かしてくれる先生。 「いいよ、自分でやるよ?」 「いいから。」 そう言って、先生に髪の毛を触られるのがくすぐったくて、恥ずかしい。 「とりあえず、後で送ってくわ。」 「うん。」 「支度できたら、電話して?」 「うん」 「どこ行きたい?」 急に行きたいところを聞かれて、少し困ってしまう私。 「まぁ、天気いーから、どっか適当にドライブでも行くか。」 「うん!!」 髪の毛が乾ききったところで、先生が、私の頭をポンと優しくたたいた。 「じゃあ、行くか。」 「うん!」 先生の家を出ると、夏の太陽が顔を出していた。 雲ひとつない快晴。 肌に触れる空気は生暖かい。 もうすぐ夏だなあ。 心は幸せな気分でいっぱいになっていた。
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