夏の始まり

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夕方5時。 マックでちいちゃんと一緒に、浩介を待つ。 浩介と会うのは久しぶりだ。 浩介は、予備校で忙しい毎日を送っているのは知っている。 そして、時々先生の家に行ってゲームしているのも知っている。 「おっす!」 私たちの前に現れた浩介は、卒業してからも全く変わらない様子だ。 「おまえら、忙しい俺を呼び出すとは、さぞ楽しい話があるんだろーな!」 カバンをどさっと置き、大の字で座る浩介。 その態度は相変わらずだ。 「楽しい話じゃないよ」 私が言う。 「なになに?おまえ、また何か悩んでるんだって?」 ちいちゃんが、さっき電話で言っていたから、悩んでいる事は浩介には伝わっている。 「くだらねー話なら帰るぞ。俺はおまえらと違って忙しいんだからな!」 そう言いながら、 「響、俺ビックマックねー。あと、コーラとポテトL。」 と当たり前に言う浩介。 本当に相変わらずだ。 「おまえの悩み相談なんだろ。聞くんだから、おごるのは当然だろ!」 もう、どうでもいいやという気持ちになりながら、浩介の言う通りに、レジへと向かった。 私、なにしてるんだろう、、、。 ビックマックを頬張りながら、浩介は聞いてくる。 「で??なに悩んでんの?どーせ、またくだらねぇ事で悩んでんだろ?」 くだらない事、かぁ。 浩介にしてみたら、たぶん、くだらないよなぁ。 昨日の話を浩介にするのは恥ずかしくて、何て言ったらいいのか、困ってしまう。 なかなか切り出せないでいる私に、浩介がシビレをきらした。 「あー!!おまえイライラすんなぁ!早く言えよ!。どーせ伊藤の事だろ?。伊藤が何したってよ!?」 イライラしている浩介。 私は下を向きながら小声で答える。 「何もしてない。」 「はぁ??。なんだそれ!」 更にイライラし始める浩介に、ちぃちゃんが、隣から補足説明をする。 「そのまんまの意味!!伊藤ね、響に何もしないんだよ!」 「はぁ??」 浩介は意味がわかっていないようで、首を傾げている。 「だからぁ、何もしないんだって!!。何も!」 ちいちゃんが、そう言うと、浩介はピンときたらしく、飲んでいたコーラを吹き出して笑いだした。 「あはははは!!!おまえ、マジで??」 恥ずかしくて、下を向く。 「うける!さすが伊藤だな!。最高うける!」 そう言って浩介が楽しんでいるのがわかる。 「なにが、さすがなのさー!響真剣に悩んでるんだからー!」 ちいちゃんが浩介に食ってかかる。 やっぱり浩介には、バカにされて茶化された。 思った通りの反応だ。 でも、一応、浩介も男だし。 何かヒントがあるかもしれない。 よく先生の家に遊びに行ってるし。 先生のこと何か知っているかもしれない。 恐る恐る浩介に聞いてみた。 「何でだと思う?」 浩介は、ニヤニヤしながら、 「そりゃあ、おまえに魅力がないからだろ。」 と言う。 、、、魅力がない、、、。 「ひっどい!なにそれ!響かわいいじゃん!」 ちいちゃんのフォローも、なんだか虚しく思えてくる私。 「はぁ?こいつの、どこが??。ボインでもないし、顔もすげー可愛いわけじゃねえし、そそられねぇだろ!伊藤もわかってんなぁ。」 そう言って、また笑い出す浩介。 浩介に言いたい放題言われて、だんだんムカムカしてきた。 「それって、私が子供だから!?。それとも好きじゃないから!?」 私が勢いづいて聞くから、浩介も少しびっくりしたみたいだけれど。 だけど、浩介は冷静で。 「まあ、ガキだとは思われてるんじゃねえの??知らねえけど」と、素っ気なく答える。 知らねえけどって。 でも、普通の男の人ならどーするのか、少し気になって、浩介に聞いてみる。 「浩介ならどうする??」 「好きな女だろ??。ガンガン行くね。そりゃ行くだろ、普通。当たり前!。」 好きな女、か。 そうか、そうだよね。 じゃあ先生にとって私は、、、? またマイナス思考が働いてしまう。 私が悩んでいるのに気づいた浩介が、少し真面目な顔をして言う。 「まあ、あいつも、また無駄に大人のフリしちまってんだろ。」 大人のフリ? 「無駄に歳食ってるから、厄介なんだよ、あいつは。本当にめんどくせぇやつだな。」 あいつあいつって、浩介からしたら、先生は元とは言え、教師じゃない口ぶりだ。 「おまえも気苦労絶えないな。まあ、あんな頭固い奴と付き合ってるんだから、仕方ねえんじゃねえの?。諦めろ。」 諦めろ、、、って。 なんだか腑に落ちないなぁ。 そう思いながら、浩介に直球で聞いてみる。 「先生は私の事好きだと思う?」 「はぁ?知らねえよ。そんなの。直接聞けばいーべや。」 確かに、そうなんだけど、、、。 先生の気持ちがわからないのは、やっぱり私が子供で、先生が大人だからなのかな。 卒業して近づけたと思ったのに、やっぱりなんだか遠いと感じてしまう。 浩介の言うことも、なんだか、よくわからないし。 余計に考えこんでしまう私。 「で?千草は??」と、突然、浩介はちいちゃんに話題を振る。 「なに?私!?」 ちいちゃんも突然すぎて、何の事なのか、わかっていない。 「エロ旅行楽しかったか?」 ニヤニヤしながらそう言う浩介に、ちぃちゃん はびっくりして、大声を上げた。 「やー!!!浩介!?何で知ってるのぉ!?。いやー!!!」 まさか!! 私もびっくりしてしまう。 「バーカ。俺はなんでも知ってるんだよ。」 渚だ、きっと。 「やだー!!!」 顔を赤くして、オロオロしているちいちゃん。 「ったく、おまえら凡人はいーよな。そんなくだらねぇことでギャーギャー騒げて。」 浩介は呆れた顔で言う。 「はぁ??なにさ!凡人って!!じゃあ浩介は何なのさ!」 浩介からふっかけられた喧嘩を、ちいちゃんも買ってしまう。 「おまえらとは格が違うんだよ、バーカ。」 「はあー?浪人生のくせにー?」 「おまえ!その口縫ってやる!」 ちいちゃんと浩介が会うと、こうなるのはいつもの事で、また始まった、、と呆れてしまう。 浩介は一気にハンバーガーとポテトを口に頬張り、「じゃ!!。俺帰るわ。浪人生暇なしだからよー!」と、帰り支度を始めた。 浩介に相談したのが間違いだった気がする。 嵐の様に去っていく浩介に、 「この事先生には言わないでね!絶対!」と、口止めをする。 「誰が言うかよ。そんな下世話な話。」 下世話って、、、。 まあ、浩介からしたらそーなんだろうけど。 はぁーっとため息をこぼす私を見て、浩介が口を開いた。 「伊藤は大人の仮面被ってるだけで、 そんなん剝ぎ取っちまえば、ただの男なんじゃねえの??。 まぁ、そもそもおまえに魅力がないだけの話かもしれないけどな。」 それだけ言って、浩介は帰って行ったんだ。 「もうっ!浩介全然役に立たなかったね!」 ちいちゃんが頬を膨らませながら言った。 私も苦笑いをする。 だけど、、、なんか核心についていた気もするような。 大人の仮面かぁ。 ちいちゃんと別れて、家路に着く。 部屋について、カバンから携帯を取り出すと、1件の着信がある。 先生からだった。 着信時間を確認すると、浩介たちと会っていた時だ。 全然気づかなかったよ。 どうしよう。 掛け直すかどうか。 携帯を持ってしばらく立ち止まる私。 話したいけれど、、、頭に昨日のことが、よぎる。 怖い。 普通に話せる自信がない。 何て言ったらいいのかわからない。 先生からの電話を素直に喜べないなんて。 結局、メールで返事をした私。 「浩介達とご飯行ってたよ。今日は疲れたからもう寝るね。おやすみなさい。」 しばらくして、「わかった。おやすみ。」 というメールが届いた。 先生が遠くに感じるよ。 この先どうなって行くのかな、私達。
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