夏の始まり

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課題のレポートやら辞書やら入った、どっしりと重いカバンを持って、バイト先へ向かう。 今日はバイトの日だ。 「お疲れ様でーす。」 更衣室に入って、書店の制服に着替える。 ネームの横に、初心者マークのついたバッチをつける。 「お疲れ様ー。どーしたの?。なんか暗い顔してるよー??」 そう声をかけてきたのは、同じ書店でアルバイトをしている2個上の大学生、町田香さん。 私の指導係なんだ。 「課題が多く出されちゃって、、、。」 私がそう言うと、あははと笑う香さん。 「わかるー!バイトしてたら勉強なんてする暇ないよねー!わかるわぁ!!」 そう言って同調してくれる。 とても気さくで話しやすい人。 大学3年生の彼女は獣医学部に通っていて、将来は獣医師さんになりたいっていう夢がある。 出身は東京らしく、生活費の為にって大学1年生の時からこの書店でアルバイトをしている。 すごいなぁといつも思う。 頭も良くて、仕事もテキパキとこなしていて、夢もあって、私から見ると、パーフェクトな人だ。 そんな彼女から、今日もテキパキと仕事を教えてもらう。 「この前言った本の整理なんだけど、今日もう一回やろうか!」 本の整理、難しいんだよなぁ。 一度聞いても、なかなか覚えられない。 あぁ、物覚えの悪い人間って思われてるんだろうな、、、。 自虐的になりつつある私の気持ちを汲み取って勇気づけてくれる香さん。 「大丈夫だよ!!すぐに覚えれる人なんていないんだから!!私も何回もやったんだからねー!!」 そう言って励ましてくれる。 なんていい人なんだろう。 ステキな人だなぁ。 とにかく、早く仕事を覚えて一人でできるようにならなくちゃ!! よし!頑張ろう!! 説明を一生懸命聞きながら、メモを取り、香さんについて歩く私。 気づくと、閉店を知らせる音楽が鳴り始めていた。 あっという間に9時を迎えた。 バイトの時間はいつもあっという間だと感じる。 「お疲れ様!!お互い今日もよく頑張ったね!」 更衣室で、香さんが労いの言葉をくれる。 「ありがとうございます。早く覚えてできるように頑張ります。」 「焦らずゆっくりやろうねー!」 香さんはとても優しいんだ。 年上だからなのもあるんだけど、人間が出来ている気がする。 一ヶ月しかまだ一緒にいないけれど、すごい人だなぁと思わずにはいられない。 「あ、そうだ!今度他のバイトの子たちも集めて島田さんの歓迎会やろうって言ってるんだ!」 「え?そうなんですか??」 急な誘いにびっくりする私。 歓迎会なんて! まだ入って1ヶ月くらいなのに! 他にもバイトの人が数名いるのは知っていたけれど、香さん以外の人とはフロアも違うし、接点もなく、まだ名前と顔が一致していない。 「仲良いバイトの子たちいるから、今度ご飯行こう!。」 「はい!ありがとうございます!」 こうやって色んな世界が広がっていくんだなぁと実感する。 社会って、広い。 高校時代には考えられなかった世界が、今、どんどん広がっていっている。 新しい事が起こるたびに、新鮮で、ワクワクした気持ちになる。 短大でも新しく友達ができたし、バイト先でも仲良くしてくれる人ができたら、きっと、もっと楽しいだろうな。 少しずつ大人になっていっているのかなぁ。 自分じゃ気付かないけれど。 そうだといいなぁ。 「じゃあ、お疲れ様!また金曜日ね!!」 「お疲れ様でした!ありがとうございました!」 そう言って、深々と頭を下げた。 なんとか今日も一日終わった。 腕時計を見ると、9時10分を指している。 あぁ、疲れたな。 ふうっと小さなため息が出る。 重いカバンを肩にかけ、職員出口の重いドアを開けた。 すると、道路の向こう側に見覚えのある車が止まっているのが見えたんだ。 もしかして! 急いで道路を渡り、車に近づく。 先生だ!! 見覚えのある車は、やっぱり先生の車だ。 運転席に座る先生の姿を見て、胸が高鳴った。
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