夏の始まり

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車に近くと、先生は私に気づいて、運転席の窓を開ける。 Tシャツにジーンズというラフな格好をして、 「お疲れ。」と言う先生。 その顔を見ると、バイトの疲れが一瞬にして吹き飛んだ。 「どーしたの??連絡くれてた??」 急に連絡なしに、こうやってバイト先まで迎えに来てくれるなんて初めてだ。 「いや、ちょうど終わる頃かなと思って。」 ぶっきらぼうにタバコを吸いながら、そう言う先生の姿に、胸の奥が熱くなる。 会いにきてくれたの?? 嬉しい!! 自然と笑顔になる私。 「まぁ、乗れよ」 「うん!」 助手席に乗り込み、重いカバンを抱える。 「なんだ、その荷物。重そうだな。」 私のパンパンなカバンを見て、先生は荷物の重さに気づいたようだ。 「課題。いっぱい出たんだ。夏休みまでにやららなきゃならなくて。」 「そりゃ大変だな。」 ふっと笑って、先生はタバコの灰を灰皿に落とす。 「バイトは覚えることいっぱいだし。勉強もしなきゃならないし、大変だよ。」 そう言うと、先生がまたふっと笑った。 「まぁ、そーだな。」 そして、私を試すように先生は言う。 「じゃあ、しばらく会うのやめるか?」 本意じゃないのは先生の顔を見ればすぐわかる。 意地悪にそう言う先生の顔は、いたずらっ子の子供のようだ。 「やだ!」 先生のいたずらな態度に、わかってはいつつも、ついつい反論してしまう私。 「そーだな。」 またふっと笑う先生。 先生は時々本当にずるい言い方をする時があるんだよなぁ。 私が嫌だって言うのわかってるのに。 私の気持ち、わかってるはずなのに。 「勉強もバイトも頑張るよ!。」 「ほどほどにな。」 「うん。」 車は私の家の方角へ走り出した。 「疲れてんだろ。送るよ。」 先生の優しさは嬉しい。 ただ会いに来てくれたその気持ちも素直に嬉しいと思う。 でも、もう少し一緒にいたい。 最近ますますその気持ちが強くなっている私。 わがままかなぁ?? 明日は先生も仕事だしなぁ。 私も明日は学校があるし。 先生はいつも、夜遅くなる前に必ず家まで送ってくれる。 デートの時も。 先生の家で会っている時も。 キスをしていても、ギュッと抱きしめあっている時でも。 いつも先生の中には超えてはいけない時間、、、そう、タイムリミットがあるんだ。 会うことが増えてきて、最近わかってきた事だ。 先生とこうやって一緒に過ごせる時間は本当に嬉しくて幸せ。 だけど、、、。 もっとずっと一緒にいたいっていう気持ちが私の中で、最近芽生えつつあるんだ。 会いにきてくれたんだから、それ以上求めちゃダメ! それだけで充分だよ!と、自分に言い聞かせる。 「うん。ありがとう。」 確かに疲れてるし、今日はこのまま帰ろう。 この先を曲がれば、家に着いてしまう。 離れがたい気持ちを察してくれたのか、 先生は、車を路肩に止めて、私にキスをする。 甘くて、とろけてしまいそうなキス。 このまま、ずっと、もっと、先生を感じていたい。 そんな気持ちを最近隠せなくなっている私がいる。 唇を離すと、先生に「好きだよ」と言われる。 くすぐったくて、恥ずかしい気持ちになる。 もっと一緒にいたい。 このまま帰りたくなんてない。 先生は私の頭をポンポンと軽くたたいて、 「じゃあ、気をつけて帰れよ。」と言う。 まただ。 いつも先生のこの言葉で、一気に夢から現実へと戻るんだ。 後ろ髪を引かれる思いで、車から降りる。 「送ってくれてありがとう。」 「週末は、、、って言いたいところだけど、今週は勉強しとけ。」 パンパンに詰まった私の鞄を見て先生が言う。 肩にどっしりのしかかる課題の山を知られてしまった以上、何も言い返す事が出来ない。 まぁ、仕方ないか。 「はぁい。おやすみなさい。」 「じゃあな。」 そう言って先生は車を走らせていく。 走り出す車を見つめながら、何か少し物足りない気持ちを抱える。 もっと一緒にいたいよ、、、。 いつもそうなんだ。 先生と別れた後は、いつも寂しくて、切ない気持ちになる。 先生、、、先生は同じ気持ち? もっと一緒にいたいって、思ってくれているのかな? 離れたくないって、思ってくれたりするのかな?
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