夏の始まり

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先生のことはわかってるつもりだけど、 本当にわかっているのかな?。 あまり気持ちを言葉には出さない先生。 それでも伝わる優しさを、いつも感じてはいるけれど。 私のことをとても大切にしてくれている先生。 何気ない態度だったり、仕草だったり、信じられるものは沢山ある。 大人なのに、時々子供っぽい先生。 いたずらっ子のように笑う笑顔が大好きで、そんな先生を愛おしく思う。 時折見せる、先生の心の奥にある弱さも知っているつもり。 そんな、弱さも愛おしくて、、、。 先生のことがもっと知りたい。 2人で過ごす時間が増えるたびに、どんどん貪欲になっていく私。 欲張りになっていくのがわかる。 こうして会話を交わして、唇を重ねて、体を寄せ合っていても、まだまだ知らない部分があるのかもしれない。 それを知りたいと思うのは変なことなのかな。 先生は同じように思わないのかな。 私のこと、もっと知りたいって、、、。 そう思うと、不安に駆られていく。 愛されている証拠が欲しくなる。 こんな事思うのは変な事なのかな。 私が想うくらいに、同じように先生に想ってもらいたい。 どうしたらいいのか、今の私にはわからなくて、もどかしい気持ちになる。 「こんな時間か。少し休めば?」 時計は6時になろうとしていた。 空は暗くなりつつある。 背伸びをして、辞書を閉じた。 「疲れたー!!」 「ご苦労さん」 先生も読んでいた本をテーブルに置いた。 「腹減っただろ。なんか食いにいくか?」 うーん、、、。 少し考えて、ある提案をしてみたんだ。 前から一度、先生とやってみたいと思っていた事だ。 「一緒にご飯作りたい!」 一緒にキッチンに立って料理をしてみたいと前から思っていた。 私の提案に、めんどくさそうな顔をする先生。 「はぁ?。めんどくせえよ。食いに行った方が早いって。」 「作ろうよ!!」 「そう言うけど、おまえ作れんの?」 実際そう言われると、、、困るけど。 「、、、作れないけど。でも一緒に作りたい!。ダメかな??」 「ったく、おまえは。」 困った顔をしながら、冷蔵庫を覗きに行ってくれる先生。 優しいな。 「肉と野菜はあるな。スタンダードにカレーだな。」 冷蔵庫を覗きながら、先生は決めたようだ。 「作る作る!」 立ち上がって台所に行く。 「じゃあおまえ野菜切って。俺米炊くわ。」 「うん!」 なんだか楽しい。 こうやって2人並んで料理するなんて、夢のようだ。 「野菜切った?」 まな板の前で手が止まってる私を覗き込む先生。 「じゃがいもって皮むくんだよね??」 ゴロゴロしたじゃがいもを目の前にして手が止まっている私に、はぁーっと、ため息をこぼす先生。 「おまえ、カレーくらい作ったことないのか」 「、、ない。」 だって、家ではお母さんが料理をしてくれているし、、、。 「ったく。」 呆れているのがわかる。 「ごめんなさい。」 こんな料理もできない彼女、嫌だろうな。 そう思うと、申し訳ない気持ちになる。 「いーよ。こうやって覚えていけばいーんじゃねぇの?。」 先生のその言葉で、一瞬にして心が軽くなる。 私との未来を当たり前のように考えてくれている先生の気持ちが嬉しい。 「まぁ、こーゆーのも楽しいかもな。」 先生が、笑って言う。 「うん!すっごく楽しい!!」 先生の顔を見て、素直な気持ちを伝えると、ふっと笑って、優しくキスをする先生。 !!! ドキドキが止まらない。 「ほら、作るぞ。」 と、何事も無かったかのように、料理をし始める先生。 本当に先生には敵わないなぁと思う。 私はこんなにドキドキしてるんだけどなぁ。 何気ない言葉や態度に一喜一憂している私。 先生の事が大好きなんだよ。 先生はどう思ってるのかなぁ?なんて考えながら、2人で料理を続けた。 カレーは無事出来上がって、テーブルに向かい合い、2人で食べる。 とは言っても、ほとんど、先生が作ったんだけど、、、。 先生に教えてもらいながら作ったカレーを食べて、少し情け無く思う私。 お母さんに今度料理教えてもらおう! 次はリベンジしたい!と闘志を燃やした。 2人で作ったカレーはとても美味しくて、幸せな気分になる。 「おいしいね!」 「まあ、こんなもんだろ。」 淡々とそう言ってカレーを食べる先生。 「2人で作ったから美味しいよ?」 本当にそうだと思う。 2人で作ったカレーだから、美味しいんだ。 1人幸せな気分でいると、 「たまにはいいかもな、こーゆーのも。」 と、先生が言う。 「うん。楽しい!!」 本当に楽しくて、幸せな時間だ。 先生はいつもそんな時間を私にくれるんだ。 「おまえは何しても楽しいって言うよな。楽しそうな顔するし。」 「だって、本当に楽しいよ?」 そう言うと、先生はふっと笑った。 「安心するよ。」 安心? 「ほっとするよ。おまえといると。」 先生の言葉に顔が赤くなる。 そんな事言われたら、嬉しいよ。 嬉しいに決まってる。 照れくさくて、何て言えばいいのか、わからない私に、先生は続ける。 「おまえには、ずっとそのままでいて欲しいと思うよ。」 テレビを見ながら、先生が言った。 前にも何回か言われたことがある。 おまえはおまえのままでいればいいって。 でも、料理も作れない、先生に頼りっきりな今の自分じゃ、嫌だけどなぁ、、、と思ってしまう。 私は早く大人になりたいよ。 先生と肩を並んで歩ける大人に、早くなりたいって、いつも思っている。 そして、先生にもっと愛されたい、、、 そんな欲まで出始めている私がいるんだ。 そんな私を知ったら、先生、どう思うんだろう。
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