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アカオニ
負傷した護衛退鬼師の少年を背後にかばい、神埜は二体の鬼と対峙する。
鬼は、成人している大人の前に現れることはない。
今年、ついに成人を迎えた神埜は、前線にいる退鬼師たちの後方支援に徹することになった。
今夜の討伐任務の支援も比較的容易に終わるはずであったのに。
「あ・そ・ぼ」
「ア、ソ、ボ」
鬼の赤い目が、神埜の姿を捉える。
イレギュラーな鬼の出現。
元退鬼師ではあるが、とある事情により成人前から前線を離脱していた神埜にとって、数年ぶりの鬼との対面である。
相手は【テツナギオニ】。
体長は二メートル以上、角が二本の黄鬼。
捕まったら負けだというのに、さらに二対一では分が悪すぎる。
「……神埜先輩、……逃げて、ください」
少年の負傷箇所は左足と右肩、自力で歩くのは難しそうだ。
そうかといって神埜一人では、負傷した少年を背負って逃げることもできなければ、置き去りにして一人だけ逃げるなんてできるわけがない。
「私が、……」
やらなければ。
自分が鬼を退治しなければならない。
前線に出た経験のある自分が、仲間を守らなければならない。
すぐそばには、負傷した少年退鬼師が使用していた刀がある。
これを使って、目の前の鬼を退治すればいい。
「……ッ」
手が震える。
身体が震える。
それは鬼に対する恐怖からくる震えではない。
生死がかかったこんな状況でさえ、過去のトラウマが神埜の脳裏をよぎり、武器を取ろうとする手を震わせるのだ。
鬼が腕を振り被る。
震える神埜の手は、刀を握ることができない。
鬼の鋭い爪が何もできない神埜に振り下ろされようとして――
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