七月末日、君と

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 惨憺たる出来だった試験結果も、丹羽を奮い立たせることはできなかった。  ノートや参考書を広げただけで、かれこれ十五分以上は居間に仰のいている。  頭に浮かぶのは、紅平のことだけだった。  中学時代にはじまり、つい先週の「惨劇」に至るまで。脳裏には、少年期から青年期へと成長を遂げる紅平の姿が走馬灯のように蘇る。互いがすぐ近くに存在するのが常の、空気と等しいくらい当たり前の、二人で共有してきた年月(とき)。  はっきり、させよう。  心は迷いなくそう告げている。紅平が、俺の前に現れたら、きちんと、しなければ。  はっきりと。きちんと。 (……そんなの、できるか?)  はああ、と嘆息とともに横を向いて身を丸めた。  引導を渡すのは、俺だ。  それができなければ、ずうっとこのまま悶々とするしかない。俺も辛いが、紅平はもっと辛いだろう。バイト先であんな目に遭って、無理矢理笑って過ごしてるなんて、地獄だろ……。  がばりと身を起こして、殺風景な居間の片隅を見るでもなく見つめる。はじめは嫌だった畳部屋も、今では何の気にもならない。三年目を迎えた我が家は極めて物が少なく、整然と片付いていた。紅平は顔に似合わず、部屋を散らかす天才で、学生証や鍵をしょっちゅうなくしては探し回っている。  大学入学直後に、二人で定期券を探して疲弊しきったことを思い出した。 (……で、俺は結局、どうしたいんだ?)  自然とこぼれた笑みも、瞬時に冷却されてしまう。  恋愛というフィルターを通すと、友人として培った思い出もすべて色褪せてしまうのだろうか?  そんなのは――嫌だ。  ごく自然と心底に落ちた己の声が、本心なのだと確信した。  まさに、その時だった。  ドンッ、と鈍い衝撃音が安アパートの一室を震わせた。  飛び上がると音の出所――玄関――を、凝視した。 (不審者……? こんな貧乏学生襲っても何も出ねえぞ……。もしかして、イノシシ?)  足音を忍ばせてドアスコープを覗いても、外には闇夜が広がるだけである。再びの静けさの中、意を決してドアを押し開こうとした。 「ん? え? なに……」  何かがつかえてドアが開かない。数センチの隙間から外をのぞきこんで、ひ、と叫びかけた。  玄関ドアにもたれるようにして、誰かが座りこんでいる。  投げ出された細い足、だらりと垂れた頭、顔を覆う伽羅色の髪……。 「紅平!!」  力任せにドアを押した丹羽のせいで、紅平は顔面から地面に倒れ伏した。
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