七月末日、君と

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 ようやく身を起こすと、壁に押しつけていた背中が微かに痛んだ。 「でも」  切り出した自分の声は、歴然と意志を持っていた。  俺は、何を言おうとしているのか。  頭も心もぐるぐるとしたままなのに。でも、伝えなければ。こいつに。いっつもボケっとしてて、なに考えてんのかさっぱりわからない、中学の頃から少しも変わってない、俺の――。 「紅平の気持ちを知らないままでいたら、もっと後悔してた」  俺は、と続けた声がためらい、一呼吸を置いた。 「俺の想像する未来には、いつもお前が登場する。どんな関係なのかとか、冷静に考えればおかしいとか……そんなことも思いつかないくらい、自然に想像してた。……昔から、ずっと」  こいつは、どうだったのだろう?  瞬きを忘れた彼の瞳を見据えて考える。一体、いつから……。  決して幸福なだけの未来は想像できなかったはずだ。  自分の想いに具体的な名前を付けることもできずに、朧げに浮かべただけの俺とは比較にならない辛い未来を予想したのではないか?  ぽつぽつと途切れる不器用な喋り方で、何度も想いを伝えようとしていたのではないか?  どうして……真っ正直に、恋バナなんかしたんだ?  そんなの、適当にはぐらかせば済むのに。どこまで素直なんだ。バカが付くほど、だ。  ――知りたい。心配する、理由。  バイトを始めると聞かされたあの日、先に伝えてあげれば、よかった。 「お前は俺にとって、それくらい大事な存在ってことだ」  恋かどうかはともかく。  そう付け足そうとした言葉は、声にならなかった。  紅平に、唇を、奪われた。
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