七月末日、君と

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 丹羽の背中は再び壁に押しつけられた。  急くように押し入れられた舌に口内を蹂躙される。上腕をつかむ紅平の指が食いこんで、痛い。 「んぅ……」  自分の喘ぎ声がことさら卑猥に響き、羞恥で耳まで熱くなる。  人並に、経験は積んできた。  だが、男に、それも紅平に、こんな目に遭わされるとは思いもしなかった。初めて味わう衝撃と背徳感に、全身が慄く。  紅平が顔の向きを変えた。鼻先が時折、頬をくすぐる。微かにジンとライムの味が伝わってきた。  こいつは今、どんな(ツラ)をしているのか?  確認したいのはやまやまだったが、恥ずかしさでひたすらに瞳を閉じているしかない。  冷房を効かせた薄暗い部屋で、すでに、うっすらと汗をかいていた。  ようやく解放されたと思った途端に、体を抱き寄せられた。ゆっくりと、世界が傾く。体重をかけて力任せに押し倒すのではなく、紅平が腕の力で支えているのがわかった。まるで女の子を扱うように、そっと、優しく、丹羽の体は横たえられた。  開き切った眼に映るのは、深いキスを交わした直後とは思えぬ落ち着いた紅平の顔と、薄闇に同化した天井だった。(めぐむ)、と呼ぶ声。少しずつ近づく顔。首筋に落とされた、熱い、唇。  ……いいのか? 俺。  自問に返る声は、なかった。
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