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その痛みは計り知れない。 だって、彼女はどこまでも作り笑顔が上手だったから。 結局俺達は、違う星の住人なんだろう。 同じように傷だらけで、何もかも捨てられなくて。それでも全部、違う痛み。 知ったところで、救えるものなんて何一つない。そんなこと、多分望んでいない。彼女も、そして俺自身も。だから何も聞かないんだ。お互い、その心の置き場所は誰にも知らせない。自分だけが知っていればいい。 何があったの? どうした? 何で泣いてるの? そんなありきたりな言葉に何の意味があるのだろうか。そんな陳腐な言葉で慰められるのならば、俺達はきっとこんなところで迷ってなんかない。 窓から射し込む光に、眼がチカチカと瞬いた。 「今日は夕日がやけに赤いね」 「え?」 窓の外を眺めながらそう言った俺に連れて、彼女も同じ方を見る。 燃えるように真っ赤な夕日に晒された彼女の横顔は、やっぱりどこか泣いているように見えた。その涙の落ちる場所は、きっとまだ見つけられていない。 「知ってます?先輩」 ゆっくりと沈んでいく夕日を見ながら彼女が俺に問い掛ける。 「夕焼けって、人の眼に映る時にはもう太陽は沈んじゃってるんですよ」 君は確かにここにいる筈なのに、もう何処にもいないような気がした。 「赤は波長が長いから、反射した光が残って人間の眼に写ってるだけ。本当は、もう何もない。私達は幻影をただ追いかけてるだけ」 本当の君は何処にいる?その眼には何が写ってる?君の音は、何を叫んでる? 全部考えたってキリがない。君は答えない。俺だって聞かない。 2人の間に必要なのはきっと、“音”だけだから。それだけが此処にいる理由。 今さら引き返すつもりもない。君の隠してきた傷に触れたからって、俺達だってもう他に方法が見当たらない。 彼女はずっと沈む夕日を見ていた。だから俺も前を向いた。 そうか、この眼に写る光は、もう先に明日へ行ってしまったのか。 「人間の眼に写るものなんて、ほんのわずかなもので、でも多分その眼に写るものが全てで。その光が届く量は、誰一人として同じ事はない。だから、どれだけ同じ方向を向いても、どれだけ時間を重ねたって───私と夏目先輩が同じ景色を見ることは一生ないんでしょうね」 そう言って、ゆっくりと瞬きをした。 ここでギターを鳴らし始めて数週間。 たった一本のギターだけを頼りに、2人はここにいる。そしてただ、このギターを鳴らす。 ただそれだけだった。言葉も、温度もいらない。“音”だけで確かめていた。 彼女はきっと気付いている。 君と俺とは見つめている先が違っていることを。そしてそれが、交わることは無いってことも。 それでもいい。なんだっていい。 今の苦しみから逃れられるなら。 その先の想いなんてものは、いくらでも騙してやる。 「…始めよっか」 また今日もギターが鳴る。 それだけが2人を繋いでいた。
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