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もう何度目かのドアが開く気配がして、あまり期待せずに入り口を確認する。ゆっくりと開いたドアから現れたのは、ずっと待ち焦がれていた人。彼が店内に一歩足を踏み入れれば、一瞬にして空気が変わったのが分かった。心なしか、後光が射して見える。 ……改めて見ても、やっぱり綺麗な人。 人の目を惹き付ける。彼が醸し出す空気とか、存在が。 歩いてくる先輩をボーッと眺めていると、店内を一概した先輩と目があった。こちらにゆっくりと近付いてくる。 「んじゃ行こっか」 現れた夏目奏多先輩は、一時間待たせた事など悪びれもせずに、店に入って私を見つけるなりその一言だけを発して店を出ていった。 「え?…え??」 もはや訳が分からず、急いでギターを担いで、そそくさと前を歩く先輩を追いかける。 駅前の広場を通り過ぎて、一本脇道に入れば、小さなコンビニと寂れた中華料理店。先輩は迷いなく歩みを進め、細い道を抜ければ、レンガ造りの道が続くアーケードに出た。 こんな所があったなんて知らなかった…。決して店数は多くはないが、服屋からアクセサリーショップ、時計屋などがレンガ道を挟んで並んでいる。その並びの一番奥にある店の前で、先輩はやっと足を止めた。 ここまでなんと、お互い無言である。 そっと顔を上げて店の上にある看板を見る。黒ベースの長方形の看板に、落ち着いたシルバーで『楽器~ASAHINA~』と書かれたシンプルな作り。 どうやら楽器屋さんらしい。よかった、地獄行きではなさそうだ…。 店内を覗けるショーウィンドウには何故か、どでかいテディベアが鋭いサングラスを掛けて、ぞうさんみたいな形をしたエレキギターを抱えている。何このセンス。 しかもギターは3万9千円なのに、テディベア11万7千円してる。………11万…? じーっとショーウィンドウを凝視していると、先輩はガラス張りの重そうな扉をひょいっと身軽に開けて、勝手知ったる動きで中に入る。私も慌ててそれに続いた。 「うわー……」 店の中に入れば、心地よい音量でビートルズが流れていた。店内を見渡して思わず声が漏れる。
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