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週明けの雨というものは些か憂鬱になる。 それが朝からとなれば、満員電車はいつもより暑苦しいし、誰かの傘が制服を湿らす。ワックスでセットした髪は湿気で台無しだし、学校に着いた頃にはもうローファーの中はぐちょぐちょだ。それだけでもう家に帰りたくなる。 「はぁ……」 それは“華桜学園のゼウス”と言う(不本意な)異名を持つ生徒会長様も例外ではない。 朝から溜め息を吐いて、整った顔をこれでもかと歪ませて机に突っ伏している。そこから見える横顔ときたら、それはもう見るも無惨な…… 「うるさいんだけど」 「あ、起きてたの?」 朝から隣の席で意味の分からないナレーションを永遠に語る男─── 一ノ瀬 世那に目線だけ向けて、その口を制止させる。 こんな憂鬱な朝に何でこんなにも楽しそうなんだ、この男は。 「いやー、教室に来たら珍しくゼウスがいるもんだからびっくりしちゃって。そりゃ雨も降るなって」 カラカラと笑い声をあげながら愉快そうに話す世那に、自分の顔がますます歪んでいくのが分かった。あと雨は梅雨のせいだ。 「その“ゼウス”ってやつ止めてくれない?」 「なんで?いいじゃん。神だよ?」 「召されてんじゃねーかよ」 馬鹿馬鹿しい新聞部のせいでこっちは個人情報は駄々漏れだし、意味の分からないネーミングを付けられるしで迷惑極まりない。お陰で静かに廊下を歩くことすら儘ならない。 「……廃部にしてやろうかな」 「冗談に聞こえないからやめなよ」 ボソリと呟いた言葉を拾った世那が、苦笑いを浮かべながら机に片肘を付いて此方を向く。 ホームルームの時間が迫るにつれて賑やかさを増していく教室に、自分の顔が段々険しくなっていく。 うるさい。やっぱり来なきゃよかった。 「そんな顔するならホームルームなんて来なきゃよかったのに。単位取り終えて自由登校でしょ?」 「来たくて来てるように見えるの?」 顔をこてんと傾けて不思議そうな顔をしている目の前の男に苛つきが益々募っていく。 この時期の専攻科の3年は殆んどが座学の単位を取り終えて、時間割りは各々になっている。だから世那の言う通り、午前の授業に出る必要のない俺はこんな大雨の中わざわざ朝っぱらから登校してくる必要は普段はない。そう、普段は。 「そんなに僕に会いたかったの?」 「めちゃめちゃな」 わざとらしく少し高い声でそう言う世那のネクタイを許されるのならば今すぐに締め上げたい。 俺がわざわざ朝から来ている理由を知っててニコニコと笑っているのだからタチが悪い。そのうざったい前髪チョン切ってやろうか。 「まあ、あれは僕にも想定外だったけどねぇ」 「なんなんだよ本当に…」 人の思惑というものは本当に思い通りにならない。俺が大雨の朝から学校に来ている理由、それは二日前の土曜日に遡る。
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