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いつもきれいに光っている月が、まれに赤黒くよどむことを、少女は知っている。
空の下のほうで、まるで血に浸されていたみたいな真っ赤な月がゆっくりと顔を出してくるさまは、不気味でおぞましく、彼女は母の胸から離れられなかったのを覚えている。
おいうちをかけるように、年のはなれた兄が言った言葉も、彼女の脳裏に深くきざまれていた。
「赤い月はな……ーー」
それから彼女は夜がおそろしくなった。またいつ月が赤く変貌するかわからず、空を見上げるのをやめた。
あの日以来、少女は赤い月は見ていない。
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