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席に戻り、美香に「どうしよう。南くんが店に来る……」と小声で告げた。
「良かったじゃない」美香は小さく喜んだ。
「良いのかなぁ。この後、どんな不幸が訪れるか……」
「また、そんなこと言って」
「……私は真剣なの」
美香はそれ以上、追及しなかった。いつもならバカなこと言って……と、説教が始まるのだが。
「不幸なこと起っちゃったかも」
美香が呟く。
「え?」
「さっき貸してもらったミラー……」
私のコンパクトミラーを差し出す美香。鏡には縦に亀裂が入っている。
「ごめん。トイレで落としちゃって。言い出せなかった」
美香は両手を合わせ、頭を下げた。私は割れた線を撫でた。お気に入りのミラーだったのに。
しかし美香を責める気にはなれなかった。わざとではないし、何よりジンクスがそうさせたのかもしれないのだ。
「だ、大丈夫」
私は慌てて、笑みを浮かべる。
「本当?」
「うん。これで、幸せを目一杯楽しむ覚悟ができた」
「七奈にしては、前向きな発言」
こわばっていた美香の表情が、ようやく緩んだ。
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