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私たちが店の前に着くと、ドアの前に品の良さそうなおばあさんが立っていた。白い日よけの帽子を被り、高級そうなベージュ色のワンピースが良く似合う。
「並ばれていますか?」
南くんがそう聞くと、おばあさんは「違うの。勘違いさせちゃってごめんなさい」と、首を大きく振った。
「お店に入らないんですか?」
私は首を傾げた。
「……そうね。今日は止めておこうかしら」おばあさんはゆっくりと頷いた。
「何か事情でも?」
「いえ、たいしたことじゃないの」
大きくシワを作り、にっこりとした表情を浮かべる。そして深々とお辞儀をした後、上品な歩き方で店から離れていった。
おばあさんが行くのを見届けた後、私たちはドアを開けた。
ドアベルに導かれ入ると、暖色系の照明に照らされる。店内の壁はレンガで覆われ、古書の詰まった本棚が並ぶ。左手には古びた木製のテーブル席が三つ、右手のカウンターでは父がディッシュクロスでカップを拭いていた。お客はいなかった。
「いらっしゃい」
父がそう言って、私たちに視線を向けた。
「七奈の友達?」
「クラスメイトの南くん」
南くんが頭を下げると、父は「七奈の父です」と笑顔を作った。笑うと、唇と共に口ひげが大きく上がる。「どうぞ、座ってください」と、カウンター席を手で指した。
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