南くん

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 南くんは言われた通りそこに座る。父は水とおしぼりをカウンターテーブルに置き、「何にしますか?」と尋ねた。  南くんは慌てて、三角型のメニュースタンドを手に取った。どれもハンバーガーが五、六個は買えてしまう金額だ。私は眉間にシワを寄せ、父を見た。  父は「分かっている」という表情で頷き、「ごちそうするから、好きなものを言ってね」と南くんに言った。 「いや、でも……」 「いいから、いいから」と頬を緩める父。 「ありがとうございます」  南くんは頭を下げ、「これをお願いします」と、メニューの中で最も安いブレンドコーヒーを指した。 「はいよ」  カウンター奥の上棚には西洋風のカップや皿、コーヒー豆の入った瓶が並んでいる。父はその棚から一つ瓶を取り、スプーンで中の豆を取り出すと、計量カップに移し、デジタルスケールで豆の重さを測った。測り終わった豆をグラインダーにかける。店内に微量のモーター音が響く。 「かっこいいミキサーですね」  南くんは、古めかしい喫茶店には不釣合いなスチール製のミキサーを見ながら言った。 「これはコーヒー豆専用のミキサーで、グラインダーって言うんだ」 「へぇ」と南くんは頷いた。
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