南くん

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 私は店の奥に入り、白シャツと黒のパンツに着替え、エプロンをつけた。その姿で奥から出てくると、南くんは「かっこいいね」と親指を立てた。  恥ずかしさのあまり、思わずうつむいた。こそこそと横歩きで、ドア前へと移動する。 「おまたせしました」  カウンターテーブルに、ブレンドコーヒーが置かれる。遅れて、シュガーポットとミルクポットが、南くんの前に運ばれてくる。  彼はそれには手を付けず、そのままカップを口に運んだ。そして、慌ててカップを口から離した。  無言のまま、父と目が合う。 「無理せず、砂糖とミルクを使ってね」 「いや、せっかくのコーヒーを汚してしまうようで……」  うなだれる南くんに、「コーヒーって体質もあるから、無理しちゃダメだよ」と私が言うと、父もうなずいた。  南くんは観念したように、ミルクを注ぎ、角砂糖を一つ、二つ入れた。再度口に運び、「美味しいです」と笑顔を浮かべた。  父は素直に喜んだが、私は無理して言っていないか、心配だった。  やがて、続けて数人のお客さんが入ってきた。私が対応に追われていると、南くんはその様子を黙って見ていた。  時折、南くんと目が合った。微笑ましそうに向ける彼の視線が、こそばゆかった。仕事の合間、彼に「そんなに見られると恥ずかしいよ」と、勇気を出して言った。 「ごめんね。羨ましくもあり、嬉しくもあって……」 「え?」 「僕はもう手伝えないからさ。頑張っている君を見ると、つい……」  その表情はどこか寂し気だった。  南くんは、私と自分を重ね合わせているのかもしれない。
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