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美香
幼い頃、両親が共働きしていたこともあり、小学校が終わるとよく児童館に預けられていた。友達はいなかった。一人、児童館の隅で、ただ積み木を重ねて遊んでいた。まるで孤独を積み重ねているかのようだった。重なった積み木が音を立てて崩れても、また積み直した。孤独はどんどん高くなった。
ある時、重ねていた積み木のてっぺんに三角の積み木が置かれた。一人の少女が置いたのだ。彼女はこう言った。「もうおしまい」と。さらに「一緒に遊びましょう」と続け、手を差し出した。私は尖ったてっぺんを見て頷き、彼女の手を取った。
それ以降、私とその少女――美香とは、周りが羨むほどの仲良しになった。
「何で、カウンターでやらないわけ?」
美香はテーブルに頬杖をついてそう言った。今日は定休日。父に内緒で店を開け、豆をブレンドし、オリジナルのコーヒーを作っていた。
しかし、私の作業スタイルに、美香は疑問を持っていた。私はカウンターで作らず、テーブル席で作っていたのだ。延長コードを敷き、倉庫に眠っていた小型のグラインダー、電気ポットをテーブルの上で動かしていた。豆は外の焙煎店で購入したもので、水もミネラルウォーター、電気以外は店の物を使用しないと言う徹底ぶり。
「自信ないよ」
父の職人ぶりを見ていると、カウンターに立つ勇気が出なかった。自分にはその資格がないように思えて仕方ないのだ。
「お父さんに聞いてみれば……許可もらってみればいいのに」
「怖いから……」
「優しいお父さんじゃない」
「違うの。許可が下りなくてもショックだし、下りても怖い」
「またそれか。どうすれば治るんだろうね。七奈の幸せ恐怖症」
グラインダーに豆を入れる。「南くんだって、あれっきりでしょ?」と美香がフゥとため息をつく。
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