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バス
ちぎれそうな雲を乗せ、空はゆっくりと動いていた。雲が切れる瞬間が見てみたいと思った。バス停で、首筋をピンと伸ばし、空に吸い込まれそうな勢いで、顔を上げる。しかし願いは叶わず、バスは来てしまった。
バス待ちの列が車内へと吸い込まれていく。私も後ろからそれに続く。乗車してすぐ、座席を見渡した。後ろの二人掛けの席が一つ空いている。その席の窓際に座っているのは、南くんだった。
小さな幸せを発見してしまい、その席に座るべきなのかどうか迷った。幸せの後には、帳尻が合うかのように、それ相応の不幸が訪れる。悲しいかな、私の人生は、今までそうだった。
幸せが怖くなったのは、小学校の時だ。区の絵画コンクールに入賞した次の日、交通事故に遭った。幸い打撲程度で済んだが、以来、幸せの後の不幸に怯えるようになった。中学校の時も、合唱部の大会で優勝した直後に、親友の転校が決まった。極めつけは第一志望の高校に受かった時のことだ。合格発表当日に祖母が倒れ、入学式の日にそのまま帰らぬ人となった。
父や母は「偶然に過ぎない」と意に介さなかった。しかし当事者である私にはそうは思えず、幸せを素直に受け止められないでいた。
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