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私は手に持っていたスタイリング剤を少し持ち上げ、「いつもこういうの持ってるの?」と聞いた。
「うちは家が美容院だったからさ」と彼は頭を掻く。
「だった?」
「なくなっちゃったんだ。去年」
一瞬悲しそうに顔を歪め、それを打ち消すように笑った。
「……ごめんなさい」
「全然、気にしないで」
バスはガタンと揺れ、私の身体を揺らした。傷つけてしまっただろうか。私が表情を曇らせていると、南くんは笑顔を保ったまま、こう言った。
「小さい頃から店を継ぐとばかり思ってたから、ショックだったけどね」
「そうだよね……」
「でもね、僕が再建させるって決めたから」
力強い眼差しと共に、彼は口をきゅっと結んだ。
「将来は美容師さんだ」
彼は「そう」と頷き、「僕ら、家業を持つもの同士……だったんだね」と続けた。
「うん」
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