バス

3/4
前へ
/56ページ
次へ
 私は手に持っていたスタイリング剤を少し持ち上げ、「いつもこういうの持ってるの?」と聞いた。 「うちは家が美容院だったからさ」と彼は頭を掻く。 「だった?」 「なくなっちゃったんだ。去年」  一瞬悲しそうに顔を歪め、それを打ち消すように笑った。 「……ごめんなさい」 「全然、気にしないで」  バスはガタンと揺れ、私の身体を揺らした。傷つけてしまっただろうか。私が表情を曇らせていると、南くんは笑顔を保ったまま、こう言った。 「小さい頃から店を継ぐとばかり思ってたから、ショックだったけどね」 「そうだよね……」 「でもね、僕が再建させるって決めたから」  力強い眼差しと共に、彼は口をきゅっと結んだ。 「将来は美容師さんだ」  彼は「そう」と頷き、「僕ら、家業を持つもの同士……だったんだね」と続けた。 「うん」
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加