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キーン!!
高い金属音は、青くあおい空に吸い込まれず伸びた。
左のエースは鋭く振り返る。だが音に反して白球は失速し、満員の外野スタンドを背景にたった一瞬、静止した。全速力で落下点に入った左翼手がグラヴを差し上げる。中堅手もバックアップに駆け込んで来る。
割れんばかりの歓声と悲鳴のような溜息の中、白球は下降する。ネクストバッターズサークルの打者が天を仰いだ。
捕手はマスクをかなぐり捨ててマウンドに奔る。同じようにマウンドに駆け寄る一塁手と二塁手の後ろで、最後の打者が膝から崩れ落ちた。三塁手は白球の行方を最後まで見届けず、あとはマウンドを見ればいいとばかりに前を向いた。
白球が左翼手のグラヴに収まった瞬間、左腕は両手を高々と上げ、跳び上がった。それを捕手が抱き止める。内野陣がバッテリーを取り囲み、ベンチから飛び出してきた9人も頂上に辿り着く。
最後の打球を捕球した左翼手に後ろから中堅手が抱きついて、二人を迎えた遊撃手は両手を広げた。三人は転がるように世界の中心へ向かう。
炎天下の光と音の洪水を切り裂いて、右のエースが人差し指を立てた手を高々と掲げる。幾つもの手がそれに続いた。
爆ぜた感情は言葉にならないまま、全員が咆哮した。
そして最後に、芝の最深部から駆け付けた右翼手が輪の中に飛び込んで、18本目の指が蒼天を差した。
『○○付属△△高校、38年ぶり3度目の優勝!』
空に君臨する真夏の太陽は眩く、白く、熱く。
47000人の大歓声と万雷の拍手の中、アナウンサが絶叫する。
『この夏、3907チームの頂点に立ちました!!』
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