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あっ
声にならない声は、ざわめきで満ちた放課後に吸い込まれた。
化学のレポートを持て余していた雅春が、なにとはなしに見渡したグラウンド、視界の隅にブルペンを捉えた。毎日毎日、アホみたいに見ているけれど、今日、そこにいるのは珍しく一人だけだった。
ガタリ、と机が揺れる。
マサハルは身を乗り出して、目を凝らした。間違いない。
大きく息を吸う。シャーペンを取り上げると、手近なクラスメイトを捕まえた。相手構わず知恵を拝借しレポートを急ピッチで仕上げると、グラウンドを再確認する。ぱらぱらと人影が増えていて、キャッチボールが始まっていたが、まだ空間が余っている。
よし、とマサハルは拳を握り締め、荷物をまとめるのもそこそこに教室を飛び出した。
今なら、一人しか居ない。
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