ANUBIS

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 ネオ・トーキョー、26時──。  街は眠ることを知らず道行く人々は華やかに週末の夜を楽しんでいる。  その一角の有名ホストクラブ「ニコシア」では常連によるナンバーワンホストの生誕パーティーが行われている。高い天井に迫る勢いでシャンパンタワーが組まれ、あちらこちらで歓談の声が上がる。何度も繰り返される祝杯をよそにその主役である蓮はトイレに篭って吐いていた。飲み過ぎなどではなく、抑制剤の過剰摂取による副作用だった。 「蓮。ここにいたのか」 「……アレックス」  具合が悪い時、心細い時、アレックスはすぐに気付いてそばに来てくれる。それに甘えてしまうほど蓮はアレックスのことが好きだった。 「今日はもういい。送っていくから上がりなさい」 「……うん」  口元を拭いて立ち上がると眩暈でよろけた。アレックスの雄々しい腕がそれを支えてくれる。 「さぁ。裏に出なさい。車を回すから」  ちらりと店内の方に視線をやる。主役不在でもうまく回っているようだ。一息ついて蓮は裏口へ出る。 「……寒い……」  あの夜もそうだった。寒くて、突然の発情期がやってきて、ただただ混乱していた。それを救ってくれたのもアレックスだった。けれど──。  蓮は両手で自分を掻き抱く。自分は一人。いつまでも。そう思っていれば傷つくことはない。見上げるとそこには星ひとつ見えない明るいトーキョーの空が広がっていた。 「……あ……っ……ん……」  獣人であるアレックスはもどかしいほどに優しく蓮を抱く。もっと壊してしまうほど激しく抱いてほしいのに、蓮は歯痒く唇を噛みしめる。必死になって抑制剤で発情期を抑えてはいるが周期がやってきてしまっては元も子もない。だらしないほどに濡れている尻穴が男を咥えたがって震えている。早く、と口にしてみてもアレックスは余裕の表情で慣らすことに集中している。優しくなんてしなくていい。どうせ義務からしていることなのだから、と高まる身体とは裏腹に蓮の心は冷えていく。長い指が奥に届き、身体が跳ねた。もう我慢できない。いきり立ったアレックスのペニスに両手を添える。小さく苦笑するその姿でさえ憎らしいほど愛している。 「わかった。入れるぞ」  圧迫するほど大きなペニスがそっと入ってくる。痛くはないのに息を止めて身体を強張らせる蓮を見てアレックスは優しく頬を撫でてくれる。 「息を吐け。辛いぞ」 「わかってる、早くしろよ」  欲しい。欲しくてたまらない。発情期は男の精を受けなければ狂ってしまう。蓮は呼吸が激しくなっていくのを止められない。思わず開けた口の中にアレックスの長い舌が入ってきて舌を絡ませあう。思わず背に両手を回し、腰を蠢かせる。熱いものが腹の奥で揺れているのがわかる。気持ちがよくて、それでいて哀しくて、蓮は思わず涙を零した。その雫も見逃さずアレックスは掬い取ってくれる。憎らしい。両足で腰を締め付けて早く精を、とねだる。どこまでも優しいアレックスの動きに物足りなさを感じながら蓮は意識を手放していた。
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