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「実雅さん」
その日も品川さんは僕の所へやって来た。
「食事に行きましょう」
彼女の距離感に
「少し、離れて」
そう言った。ただ、違和感しか無かったから。
「あ。すみません。私、人との距離が近いらしくて。恥ずかしい!」
そう言って、両手で顔を押さえた。
「あれから、彼女と会いました?」
「いや、まだ」
そう言って、彼女と歩く。
途中、何度かつまづく彼女が
「すみません、私すぐこけちゃうんです。背中持っても構いませんか?」
ならば、スニーカーでも履けば良いものを。彼女の足元はかかとの細い靴。渋々ながらOKした。怪我でもされたら更に面倒臭い。
初めて雅実を見かけた飲食店の前に差し掛かると
中に雅実の姿をすぐに見つけ、歩み寄った。
「雅実も来てたんだ」
そう言った。
意識せずとも、顔が綻ぶのが分かった。
自分が、いかに雅実に会いたかったか、逸る鼓動が教えてくれた。
「こんにちは」
品川さんも挨拶を交わす。
……雅実は、何だか元気がない。
それが気になった。
正直、品川さんを置いて、この場にいたいほどに。
「あー、ご一緒……」
そう言い掛けた雅実に
「いえ、私達は……雅実さんがいらっしゃると……ちょっと。ねぇ?」
そう言って僕の顔を見る品川さんに気付く。
そうか、雅実の事を話すのに雅実のいる場所では無理だ。
それに、この想い出の場所には、雅実と二人の時に、来たい。
想い出とは言っても、僕の一方的な想い出にすぎないのだが。
「場所、変えようか」
彼女にそう言った。
「じゃあ、雅実。また、連絡するね」
そう言って雅実に背中を向けた。
後で連絡しよう。そう思っていた。
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