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何はともあれ、待ち合わせ場所へと向かった。
相変わらず、紳士的に出迎えてくれる。
うーん……何がダメなんだろう、この人の。
はっ、いけない。ダメな所を探すなんて。
きっと、今までは……縁がなかっただけ。
いや、一回目だっけか。
「ありがとうございます。……今日は早々にお誘い頂いて」
「いえ、色々面倒臭い事は苦手で。早々に済ませたかったもので」
……ん?
その時
【ブーブー】
映画が始まる合図のような音。
私達の合体0が田中さんの方を向いた。
彼はそこにチラリと視線を落とすと
「……早々に会いたかったもので」
そう言った。
「いや、今……面倒臭……」
「会いたかったんです。ダメですか? 」
そう言って、ずいっと私に顔を近づけた。
「いえ、まぁ、嬉しいです」
全然嬉しくないのに、近い距離のイケメン顔につられてそう言った。
そこからも、カチャカチャと少しの食事音だけ。
今日は0もブザー音を鳴らしたっきり、静かだ。
「えっと……何か話して……」
「あなたと話すことなど、あると思いますか? 」
……ん?
【ブーブー】
再びの警告音。
チラリと0に視線を落とす田中さん。
「すみません。口下手で。何を話していいか」
「いや、今……」
「緊張、してしまって」
そう言ってまた少し私に顔を近づけた。
わっ、イケメッ……こっちが緊張するわ。
ここから、食事が終わるまで、何度か警告音が鳴った。
いや、彼が話す度に……と言った方がいいのかもしれない。
だけど、この日も“N0”は出さなかった。
お互いに。
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