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「田中さん、私がもし……他の男性の背中に手を置いて歩いていたらどう思いますか?」
「……」
田中さんが少し眉を寄せたのを見て続けた。
「田中さんには聞かれたくないから、店を変えると言って、その男性と店を出たらどうですか?」
「……」
彼がもう少し眉を寄せた。
「その男性への説明も何もあなたにしないままに、連絡すら無かったとしたら?」
彼の寄せられた眉が戻される。
「……それが、泣くほどの事?」
泣くほどの事かと言われたけれど、言葉をそのまま受け取ってはいけないな、田中さんの場合は。
「……ひどい扱いだなと、思いました。彼女を優先したと。だから……あなたは彼女を好きなのかと今日……“NO”を出すのは私ではなく、田中さんなのだと思いました」
「それで……泣いたの?」
優しい目で私を伺うように首を傾げる。
「……そう……ですけど」
ふーっと長く、その表情からは、今度は安堵のため息だろうか。
「……俺は……あまり、その、分からない。だから、嫌な思いをした時は、今度からその場で言って欲しい」
……結構それも勇気がいるんだけど
この人にはそれがいいのだろう。
「怒らせたいわけでも、……泣かせたいわけでもないんだ。それを、分かって欲しい」
そっと、私の手に触れる
「ちゃんと、伝えるから」
手から伝わる。
それだけじゃなく、彼は伝えようとしてくれている。ちゃんと。
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