第20話 まさみ

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「田中さん、私がもし……他の男性の背中に手を置いて歩いていたらどう思いますか?」 「……」 田中さんが少し眉を寄せたのを見て続けた。 「田中さんには聞かれたくないから、店を変えると言って、その男性と店を出たらどうですか?」 「……」 彼がもう少し眉を寄せた。 「その男性への説明も何もあなたにしないままに、連絡すら無かったとしたら?」 彼の寄せられた眉が戻される。 「……それが、泣くほどの事?」 泣くほどの事かと言われたけれど、言葉をそのまま受け取ってはいけないな、田中さんの場合は。 「……ひどい扱いだなと、思いました。彼女を優先したと。だから……あなたは彼女を好きなのかと今日……“NO”を出すのは私ではなく、田中さんなのだと思いました」 「それで……泣いたの?」 優しい目で私を伺うように首を傾げる。 「……そう……ですけど」 ふーっと長く、その表情からは、今度は安堵のため息だろうか。 「……俺は……あまり、その、分からない。だから、嫌な思いをした時は、今度からその場で言って欲しい」 ……結構それも勇気がいるんだけど この人にはそれがいいのだろう。 「怒らせたいわけでも、……泣かせたいわけでもないんだ。それを、分かって欲しい」 そっと、私の手に触れる 「ちゃんと、伝えるから」 手から伝わる。 それだけじゃなく、彼は伝えようとしてくれている。ちゃんと。
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