1260人が本棚に入れています
本棚に追加
/220ページ
【二人とも、心拍数が50メール走の後と同じレベルになっとるけど、緊張してんのか？】
0は体調管理も仕事のうちだ。
「お気遣いなく」
彼が無表情でそう言った。
【あともう一つ、マッチングした条件がある】
「近くにいる人……でしょ？ 」
近場にいるから、すぐに、会えたのだから。
【あ、それもそうやな】
「何よ」
【名前や】
「名前？ 」
【自己紹介くらい自分らでせえ】
「確かに。失礼致しました。田中実雅です」
「中田雅実です」
【な？似 てるやろ？ なんか、合うんちゃうかなぁーって】
0が、私達の名前を漢字で壁面に映し出した。確かに、ややこしいくらい似てる。
「ちょっと！ もっと真剣に！ 」
【“イケメン”もふざけとる】
……う。
【“誰でもいい”なんて、論外や】
田中さんも、俯いた。
【検索します】
そう言ったと思うと壁面の名前が消えて変わりに地図が映し出された。
何点か星印が点灯している。
【この近辺のホテルや。手っ取り早いやろ？】
バンッ！
彼より少し早くタップした。
【ブィッシューン】
【洒落の通じへんヤツやな。そんなんやから、まだ成婚せえへ……】
バンッ！
もう一度タップした。
さっきより、強く。
【ブィッシューン】
ようやく静かになった。
「すみません、つい」
気づけば、止めていた。
「いえ、あなたがそうしてなかったら、僕がやっていたと思います」
彼の“やっていた”は“壊していた”だと思う。
「すみません」
「こちらこそ」
私達は0を外すと、お互いの手に戻し
ため息をついた。
ゆっくりと顔を上げると
同じくゆっくりと顔を上げた彼と目が合った。
「ふっ」
「はっ」
「「あははは！ 」」
それから、暫く私達は笑い合った。
彼は、笑うと……可愛らしかった。
出だしはなかなかだったけれど
お互い“N0”は出さなかった。
最初のコメントを投稿しよう！