6.だれもしらない

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6.だれもしらない

俺の隠れ家は優希さんにとっても「秘密の隠れ家」だったそうだ。 「この周りの紫陽花の絵もたくさん描いた。 こんな学園の外れ、誰も来ないから一人でいたいときにも来てたな」 こんなに強い人でも辛いことがあったんだろうか、、、 「俺には朔もいたし、楽しかったことが多かったけどな」 優希さんは思い出話で俺を笑わせてくれて、話を聞いてくれるけど、俺の心に踏み込むことはない。 ベンチに座った俺たちに心地よい風が吹く。 「優希さんの今日の話もすごく良かったです。 俺、これからの自分のこと、もっと考えてみたいです。 でも優希さんと木嶋先生はこの学園から恨まれたりしませんか?」 「俺は学園に立ち入り禁止なっても別に問題ないし、 朔のパートナーは朔がクビになったら喜ぶかもな。 俺も朔も、パートナーのαは束縛したいタイプなんだよ。 朔は多分、クビにはならないよ。 保健室の他の先生も生徒の扱いが酷いって怒ってて、俺がこんな話をすることは相談してある。 朔がクビならみんなでやめようって言ってるらしいから」 学園内でも生徒の味方はいたようだ。 「また君に会いたいな。 弟が出来たみたいで嬉しい」 別れ際に優希さんがそんなことを言ってくれた。 名前を聞かれたので、答える。 数日後、優希さんから本が届いた。 「だれもしらない」という題名の本。 何度も読んだ大好きな本。 主人公は色々な国を旅する。 すごく寒いけど、湖やオーロラが美しい国。 自然に溢れていて、食べ物がたくさんある国。 狭いけど、みんなが仲良しの国。 色々な国を巡ったけど、どの国が一番なんて誰にもわからない。 何が良い、何が悪いって 一方的には決められない。 俺は何も見ていなかった。
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