7.ひとりだとおもっていたら

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7.ひとりだとおもっていたら

ティーパーティーはオメガ中等学園で毎月開催されている。 近隣のアルファ中等学園の生徒の他、 希望者の中からオメガ中等学園に招待されたαのみ参加が許可される。 お茶を飲むというのは口実で、パートナー探しのイベントだ。 オメガ中等学園では3年生から強制参加だが、俺は4月からの3回は参加を拒否し、謹慎を受けていた。 今回が初参加だ。 これまでの自分を変えるために、始めから拒否しない、まずは自分の目で確かめようと思った。 オメガ中等学園の生徒は、制服で参加している。 首には色とりどりのチョーカーをしている。 ほとんどはαからのプレゼントで、豪華なものも多い。 俺のチョーカーは学園から支給された黒いシンプルなものだ。 αの参加者は思い思いの姿だ。 俺の唯一の友人、成瀬光が「一緒にいようか」と言ってくれたが、断った。 パートナーと別れたばかりの光の邪魔はできない。 体育館に入るとすぐ知らない男に腕を掴まれた。 αらしく筋肉がついた大きな体。 「可愛い子だね。君の部屋に行こう」 「やめてください」 俺より力強く、振りほどけない。 気持ち悪さに震える。 「手を離してくれるかな。俺と先約があるんだ」 男の背後に見覚えのある奴。 「八重樫、、、」 男は手を離し、慌てて奥に向かった。 八重樫は紫陽花の中で会った時より少し日焼けしているようだ。 今日は半袖のシャツとパンツのカジュアルな服装。 でも他を従わせる威圧感がある。 「顔色が悪いよ。大丈夫?」 なんだかクラクラする。 初めてのティーパーティーで緊張していて、 更にあの気持ち悪い奴に会ったせいかも。 「ここに座って。飲みもの貰ってくる」 手近な椅子に俺を座らせて、 どんな飲み物がいいかきいてくれる。 八重樫が飲み物をとりにいってる間にまた、別の男が話しかけてくる。 今度はチャラチャラした奴だ。 「その子、俺のだから」 八重樫が冷たく言うと、男は逃げるように去っていく。 俺はお前のじゃないだろ!と思うが 今はこれ以上話せる気分じゃない。 八重樫は俺に温かい紅茶を手渡した。 「優希さんから本を預かってきたんだ。葉山幹人くんって君だろ。 あとで渡す」 落ち着くまで見守ってくれている。 温かい紅茶を飲むと、だんだんと気分が良くなってきたみたいだ。 そうかこいつは優希さんのパートナーの弟なんだな。 ふと周りを見ると、八重樫を見るΩの目が熱い。 すらっとした長身に、切れ長の目。 「この間は傘貸してくれてありがとう。 また会えて嬉しい」 八重樫ははじめからおれがΩだって気づいていたんだろう。 俺もあの時、自分はβって嘘ついたからお互い様か。 あの一瞬だけでも、自分がΩということを忘れなかったのかもしれない。 俺がβだったら、よかったに。 初めて会った日も、今も八重樫とはなぜか話しやすい。 また会いたいと言ってたのは、本気だったんだ。 「みきちゃん」と呼んでいいか聞かれたから、「ちゃん」はやめろと言った。 「みき」「凪」と呼び合うことにした。 今月のティーパーティーでは笹飾りがいくつか用意されていた。 短冊に願い事を書くことができる。 俺は「みんなが幸せになれますように」と書いた。 「みんなの中に俺も入ってる?」 と凪が聞くから、「もちろん」とこたえる。 凪の願い事は「思いが届きますように」。 何の思いかは聞けない。 一緒に笹につけた。 ティーパーティーはブュッフェスタイルで好きなデザートが食べられる。 みんな食べてみたいのに、こんなに食べられないなと悩んでいたら、 凪が「シェアする?」と言ってくれた。
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