7.ひとりだとおもっていたら

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テーブルに戻って、 綺麗なデザートを大切に食べた。 色々話して、笑いあっていたのに 凪が急に真顔になる。 俺の手を握ってくる。 「みき、好きだ。 誰にも渡したくない」 凪の目の中に情欲が見える。 「ごめん。俺は誰とも付き合わない。 寮に帰る」 俺は立ち上がった。 流されそうな自分が怖い。 「諦めないよ。でも、今日は寮まで送る」 周りを取り囲むαを見て、送ってもらうことにした。 無言で寮までの道を歩く。 いつの間にか、空を夕焼けが覆っていた。 こういうαに寄り添ったら、どんな人生になるんだろう。 俺には許されない生き方。 「会場で来月は夏祭りに招待だってな。また会える?」 「俺を探すな」 「探すよ。見つかるまで」 凪にお似合いの可愛いΩを見つけてほしい。 このままでは、流されていくのを止められない。 寮の前に着いた。 「これ優希さんから」 優希さんの本を受け取ろうとする俺の手を凪は引き寄せた。 「少しだけ、このままでいて」 凪が俺を抱きしめる。 凪の腕の中は心地いい。 怖いくらいだ。 でも俺の居場所じゃない。 部屋に入って優希さんの本を読んだ。 「ひとりだとおもっていたら」という題名の本だった。 主人公は自分にしっぽがあるのが嫌で、いつも一人でいた。 でも「しっぽがカッコいい」と言ってくれる友達ができた。 「僕にもしっぽがあるよ」という人もいた。 優希さんの本は何度も読んだけど、 何度でも温かい気持ちになる。 俺は凪に幸せになってもらいたい。 でも、どうしたらいいのか、わからない。
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