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9.夏祭り
毎月開催されているティーパーティーの代わりに8月は夏祭りが開催される。
厨房のみなさんにお世話になっている俺は、毎年ボランティアとして店の手伝いをしている。
学園側としても人手は必要だし、俺が逃げまわるよりいいから許可しているのだろう。
とは言っても生徒たちも今日を楽しみにしているから、他にボランティアをしている生徒はいない。
いつも周りのみんなに迷惑かけているから、今日はみんなのためにも働こう。
焼きそば、たこ焼き、かき氷、ヨーヨー釣りなどの店が出ていて、
学園の外のお祭りに行かれない生徒たちには、貴重な楽しい行事だ。
店と言っても、学園内なので無料だが。
家族やパートナーを招待することもできる。
俺には招待したい人はいない。
アルファ中等学園の生徒も参加できるが、凪は来るのだろうか。
今年はかき氷の店の手伝いをする。
普段は厨房で働いているβの清太と荷物を運ぶが、清太の半分くらいの重さしか持ちあげられない。
「みき、大丈夫か。無理するなよ」
子ども扱いか!
準備ができると、かき氷をつくり始める。
大勢の生徒や客がいるので、かき氷の店もあちこちにある。
俺たちの店にも客が並び始める。
浴衣姿の光が、新しいパートナー候補を見つけたようで、一緒に来てくれた。
焼きそば、たこ焼きなどは厨房で調理して配っている。
俺が機械でかき氷を作り、清太が客の希望のシロップをかけ、次々と配る。
厨房のスタッフの一人が慌てて走ってきた。
「清太、厨房でトラブルだ。戻って来いって」
清太は俺を見る。
「大丈夫。俺に任せろ。一人でもできる」
俺は言った。
かき氷を配る俺の手に、客の手が触れる気がするのは、気のせいか?
「これからどう?」と誘う奴もいたが、「仕事中ですから」と断る。
首のチョーカーはタオルで隠れているが、なぜかΩだとわかってしまうようだ。
でも今の客は断っても諦めない。
「βを連れてきて、店はやらせればいいだろ。お前の部屋に連れて行け」
間に長机があるのに、いつの間にか近くに来る。
必死に抵抗するが、力では負けてしまうのが悔しい。
「無理矢理なんて、見苦しいぞ。
やめろよ」
凪だった。
αは凪を見て、去っていく。
「手伝う」
凪は手際よくシロップをかけ、配っていく。
無愛想な店員だか、Ωの客が多くなっているようだ。
行列が長くなってきた。
用意した氷がなくなったから、他の店から分けてもらう。
氷が終わりかけたところで、配布時間が終わった。
凪は片付けも手伝ってくれた。
清太がようやく戻ってきたから、無事に終わったことを報告した。
凪を見て怪訝な顔をしたが、手伝ってくれたと言ったら、礼を言っていた。
「まさか店員をしてるとは思わなかった。またなんかしたの?」
「最近の俺は優等生だ。
今日は手伝いたかったから。
ありがとう、手伝ってくれて」
「みきを助けられて、よかった」
凪は本当にいい奴だ。
俺のそばになんて、いさせてはいけない。
「俺、帰るから」と立ち去ろうとする。
「待って、手伝いのお礼がまだだ」
「お礼?ごめん、何も持ってない」
「一緒に花火を見てくれればいい」
夏祭りの最後には打ち上げ花火が上がる。
「誰か他の、、、」
「みきがいいんだ」
強い口調で言われると、それ以上言えなくなった。
凪と俺は手を繋ぐ。凪は離してくれない。
凪の指から熱が伝わる。
花火が始まった。
夜空に咲く美しい花。
力強いけど、儚い。
時折隣にいる凪の顔を見る。
そばにいたいと思う心に、蓋をする。
凪が急に顔を寄せて、キスをした。
「もう会わない。これからも、ずっと」
手を振りほどくと、走りさる。
胸が痛い。
俺の頬に伝った涙はきっと、夜の闇が隠してくれた。
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