1.紫陽花の隠れ家

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1.紫陽花の隠れ家

山々の稜線の向こうに、僅かに海が見える。 海が陽の光でキラキラ光っている。 少しこのまま休もう、、、 幹人はベンチに横たわって目を閉じた。 男女の性別だけでなく、第2の性があり、大部分の人はβだが、稀に何事にも秀でているα、もっと稀に男女共妊娠可能なΩが存在する。Ωには3か月に1度発情期があり、発情期の間生殖以外のことができなくなる。 Ωの発情期のフェロモンはαが抗えない誘引力があるため、囚われたαが起こす事故が多発していた。αが多数を占める政府は学校制度を改めた。 小学1年から中学1年までの7年を初等学園、中学2年から高校3年までの5年を中等学園とした。中等学園は第2の性で分かれている。 オメガ中等学園は全寮制で、1学年200人の生徒がより優秀なαと番うために学んでいる。まあαにとって都合のいい学校なんだろう。 親としても自宅で発情期を迎えても困るし、学費も政府持ちだし、「いいα捕まえてこいよ」って送りだしているみたいだ。拒否はできないけど。 俺、幹人はこの学校の3年生だ。 そして今は謹慎という名の強制労働中…だったけど、厨房のみんなの温情で今は使われていない喫煙ルームで休憩中。 度々謹慎処分となっている俺はすっかりスタッフと打ち解けている。厨房で働くのは楽しいし、発情期あけの体だけど「1日ガンバロー」と朝は思ったよ。だけど半日で頭がクラクラして立っていられなくなった。 この1週間、あまり眠れなかっし、食べられなかったから、まあ当然だな。 それで肉体労働させようなんて、学園からの扱いは最悪。 俺の態度も最悪だから自業自得だけど。 政府の方針で、何があっても番のいない未成年のΩを追い出せないし、学園側も大変だということはわかっているのだ。 今日は学園のメインイベントの一つ、アルファ中等学園との交流ティーパーティーという名の婚活。俺は断固出席拒否の姿勢のため、厨房に押し込められている。 無理に出席させて問題を起こされも困るってことだろう。 学園内はスマホ禁止で、学園から支給された腕時計着用が義務づけられている。GPS機能もあるので、指示された厨房以外に出す訳にもいかず、厨房の更衣室に置いてある。 この腕時計は1時間以上外していると警告音が出て、警備員に探されてしまう。だから休憩は1時間以内。 厨房の裏にある東屋は昔は学園の職員の喫煙所として使われていたが、全面禁煙になって使われなくなった。旧喫煙所は紫陽花に囲まれていて、遠くに海が見える俺の隠れ家だ。 謹慎で厨房に来ているときや寮にいづらいとき、休憩に使っている。もちろん腕時計は外して、1時間以内でという自分ルールを守っている。 交流会の準備で大忙し中、俺が倒れても厨房のみんなに迷惑をかけるから、しばらく寝かせてもらおう。1時間休んで片付けには何とか復活しよう。 目を閉じ、しばらく眠る。 人の気配を感じて、目が覚めた。 誰かいる!
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